受験当日
ついに。ついに来てしまった。今日という日が。
大学の試験会場は思ったより大きく、威厳ある姿で受験生を待ち構えている。
ついに、受験。
日々の苦労とか、学びとか、そういうの全部、ここにぶちまけて帰ってやる。
そう意気込んで来たものの。
人間耐性が無さ過ぎて、早くも逃げ出したい衝動に駆られていた。
どこを見ても、人、人、人。
他人に酸素を奪われ、圧で胃が締め出される感覚がして、心底気持ち悪い。
怖い。逃げたい。情けない。
学校に行けていなかった頃を思い出す。
生きている実感がまるで無くて、無力な自分が嫌いだったあの頃。
何もかも諦めて、屍のように転がっていた。
でも。
家族、親友。
ここまで俺を支えてくれた環境が、あの頃を風化させ、俺の歩を進めさせた。
俺は今、生きてる。逃げちゃいけない。逃げたくない。
なんて、格好つけてみる。
自分が持っている受験番号と机の番号を照らし合わせる。
1020…あ、あった。
もう一度あってるかどうか確認してから席に着いた。
隅の席で、ここからは周囲の様子が窺えた。
全員が全員堂々としている、ように見える。
だから、緊張しているのは俺だけなのかと焦ってしまう。
そんなわけないはずなのに。
やがて、指定の時間になり、試験官がやってくる。
問題用紙が配られる。受け取るとき、少し手が震えていた。
そして、雑音が止んだ。
音の存在自体が許されず、自然と呼吸にまで気を配ってしまう。
秒針を眺める。
まだ12の位置まで遠かったから、少しどうでもいいことを考えた。
そこに、もはや恒例のように降って湧いた彼のこと。
まだ諦めきれていないことに心底呆れる。
ここでなかったら、溜め息を吐いていたところだ。
もう会えないんだから、考えるだけ無駄だというのに。
彼も望んでいないだろうに。
考えちゃダメなのに、どうして。
なんで…。
ああもう、なんで、出会ってしまったんだろう。
「始め。」
下らない思考は、試験管の声によって引き裂かれた。
いよいよ、始まった。
それから聞こえたのは、紙が擦れる音、ペンを走らせる音、自分の鼓動。
ただ、それだけ。
気が付いたら、帰路についていた。
これまで費やしてきた時間、努力は、消化された。全部。
全部、終わった。
なんにも考えられない。考えたくない、なのかもしれないけど。
冬の澄んだ空気を肺いっぱいに吸って、大きく伸びをした。
鼻が痛くなって、骨が音をたてた。
…あぁ。
生きている。
後日
俺が受けた大学のホームページ。
気が遠くなるほど連ねられた数字の群れの、ほんの一部。
1004
1010
1013
1017
1020












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。