第2話

ごめんアクシア
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2025/09/15 00:25 更新

「なあ、アクシア。お前ってさ、いつから俺のこと怖がるようになったの?」


 淡々とした声。


 まるでその質問の重さに気づいていないかのような、日常の一言みたいに。

 けれど、俺は答えられなかった。


 ローレンは椅子に座り、俺の目の前にいる。笑っていた。

でも、その笑みの奥には確認するような、危険な光があった。


「昔みたいにさ、俺に笑ってよ。できるでしょ?」

「初めて会った日みたいにさ」



 無理だ。

 けれど、首を横に振れば、また理由を探してくる。
 
 だから、黙っていた。何も言わなかった。


 沈黙が落ちるたびに、この部屋の空気が少しずつ重くなる。


 ここに来て、何日が経っただろう。外が昼か夜かも分からない。
 食事は出る。水もある。暴力は一切ない。


 けれど、それ以上に厄介なのは、ローレンが優しすぎることだった。


「寒くない?ブランケット、もう一枚持ってくるか?」

「無理に喋らなくてもいいよ。そばにいるだけでいいんだ」


 まるで恋人のように、俺を気遣い、大事にするその手が出口を封じている手だということに、彼だけが気づいていないふりをしている。


 ある夜、俺はとうとう言った。


「ローレンさ、これ本当に愛なの?」



 その瞬間、彼の笑みがピクリと歪んだ。
ほんの一瞬。けれど、確実に。



「……違うって、言いたいの?」

「うん。少なくとも、俺は……怖いよ。ローレンが」


 沈黙。
そのあと、ローレンは立ち上がって、壁に寄りかかった。
 笑いも怒りもない、無表情のまま、ひとことだけ。




「なら、俺はもう、全部壊していいってことだよな」


 部屋の空気が変わった。

 優しさという名の監禁が、本物の狂気へと形を変え始めた。


 ローレンは俺の好きだった曲を消した。通信機器はすべて破壊された。


 俺が誰かとつながる可能性を、ひとつひとつ潰していく。


「もう、アクシアは俺だけ見てればいいんだよ。わかってる。これは普通じゃない。でもアクシアを自由にしたら、もう俺のとこには戻ってこないでしょ?」


 狂気の奥には、絶望的な寂しさがあった。


 ただ壊してでも、失いたくないとだけ繰り返した。


 僕はまだ、ここにいる。

 出口のない夜に、埋もれている。

 それでも、どこかで思ってしまう。



 あの優しかった日々に、もう一度だけ戻れたら、と。
 それが、何より危うい希望だと分かっているのに。

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