第31話

30.1輪の花
106
2026/02/09 11:00 更新
S.
あ...
S.
そっか...やっと
1人きりの家にも大分慣れた頃


心臓のある部分が裂け、花の蕾が咲いていた


奇病でも自分の体の事だ


今日死ぬんだな、と直感でわかる


彼岸花の時の様な嫌悪感は感じない
S.
やっと、みんなに会える
今日明日で死にそうだと医者に電話を入れた


形式ばかりの慰めを伝えられ、僕も形ばかりに礼を返す





今日死ぬと思うと、何だか不思議な感覚がして


僕は止まっていられず、痛む体を動かした
S.
庭、久々に行こう
冬も終わりかけだけれどまだまだ寒く、花は咲かない


枯れた庭のベンチに座り、辺りをゆっくり見渡した


初めて見た庭は本当に綺麗だったな、なんて重ねながら
S.
そう言えば…ピクニックしたっけ
S.
懐かしい...
S.
あの世にも花とか、あるんかな
S.
てかゆうくんのご飯食べたいわ
空を見上げ、寒さに震えながらあの世へと想いを馳せる


そこに居るみんなは、僕の事が見えていたりするのだろうか


見えているなら恥ずかしい
S.
そろそろ戻ろ
S.
ほんまに冷えてきた…
自分の部屋に戻り、倒れるみたいにベッドに寝転ぶ


足を一歩動かす度、腕に力を入れる度


体が、関節が、心臓が痛んだ
S.
痛み止め飲んだんやけど…
S.
まぁ、そんなもんなんかな
やれる事が無いからただボーッと天井を眺める


みんなの事を思い出したり、ここに来る前の事を思い出したりしながら


僕の人生は間違いなく奇病に狂わされた


生まれつき血漿変蝶病を患っていなければ、こんな人生にならなかっただろうから





でも、僕は


僕を殺す花咲き病と言う奇病によって、救われていた


僕の人生の"花"はたった1年未満の、この家に居た時間だ









S.
ッ…なんか、痛くなってきた
心臓から咲く蕾を見ると、開花しようとしているのがわかった


この花が咲けば僕は死ぬのだろう
S.
それならリビングに...
半分引き摺る様にしながらそこへ向かう


足を動かすのも下手になっていた


でも自分の部屋で死にたくは無い


リビングの方が、みんなとの思い出が詰まっているから
S.
痛すぎやろ...ッ
S.
あ、そうや。強い痛み止め
ないちゃんに飲ませた痛み止めと同じ物を手に取り、何錠か飲む


マシになる事を願い、ソファに座った
S.
死ぬって大変やな...
でもそれは、ただ僕を苦しめるだけじゃない


僕をみんなの元へと連れて行ってくれる希望なのだ
S.
おもろい話
S.
"あの世"なんて考える事もなかったのに…
S.
1年足らずで、こんなに変わるんや
あの世なんて概念に期待を持ち出したのはここに来てから


だと言うのに今の僕は、それを信じて期待していた


あの世でみんなと再会する事が出来る


それを諦める事が出来ない程、僕にとってみんなは大切だった
S.
絶対、天使が迎えに来るもんな
そんな事を考えていると、今度は心臓が痛み始める


鼓動がなり、嫌でも涙が溢れる
S.
ッ...これで
庭へと続く窓からは、優しい光が差し込んでいた


身体中にまとわり、咲き乱れる花を見てふと思う
S.
そういえば…僕に花をくれる人は、おらんな
家族はもう僕を存在しなかったものとして扱っているだろう


外で他に関わりがあった人なんて居ないし


この家の誰かが生きていたなら、可能性はあったのかも知れないけれど
S.
冬だから無理かな〜…
S.
それに僕は化け物やから…そんな
S.
あ.....
ふと出た言葉に自分でも驚く


違う、僕は化け物じゃないじゃないか


ずっとそう言われて生きてきたけれど


それでも僕は、人間じゃないか


少なくともここに来てからの僕は、あの世を信じる今の僕は
S.
僕は…..ただの、人間…
そんな当たり前の事を、僕は初めて口にした


何故だかホッとした様で、痛みじゃない涙が流れる





こんな僕だから、花束を贈られる程の人生では無かっただろう


自分の墓場に花束を添えられている姿は、御伽話だとしか思えない


それでも僕は、僕なりに何とか生きて


最後にここで、幸せな人生を送れた
S.
僕の人生も…"最低"で終わらせちゃ駄目なんかも
まろちゃんに言った言葉を思い出し、少し微笑む
S.
それなら…お疲れ様、なんかな
幸い花は、僕自身が咲かせそうだ


この奇病を患って良かった


もうほんの少しで咲く花の痛みを感じながらでも、僕はそう思える




S.
会いたかった
天使の気配を感じる気がした




僕の意識は、眠りにつく様に消えていく


あの世へ期待して、御伽話みたいだと笑いながら









命の終わりに、花を咲かせて



___________End.

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