ライブ会場の熱気が冷めやらぬ楽屋。
リーダーのないこが、タオルで汗を拭いながら満面の笑みでメンバーを見渡した。
東京ドームという大きな目標を掲げ、一歩ずつ、確実にその階段を登っている実感がある。
ファンの歓声、色とりどりのペンライト、そして隣で笑い合う、家族よりも長い時間を共にする仲間たち。
ないこにとって、この光景こそが守るべき「世界」のすべてだった。
ほとけがいつものように、りうらの背中に抱きつく。
初兎が少し照れくさそうに笑い、Ifと悠佑もそれを見て目を細める。
悠佑の威勢のいい声に、一同が「おー!」と拳を突き上げる。
それが、彼らが「いつものいれいす」として過ごした、最後の幸福な記憶になるとも知らずに。
深夜。打ち上げを終え、ほろ酔い気分でシェアハウスへの帰路についていた時だった。
街灯が不自然に点滅し、周囲の喧騒が嘘のように消え去った。
fが足を止める。空気が重く、耳の奥を刺すような高周波の音が響き始めた。
『キィィィィィィィィン――……』
ほとけが耳を塞いで蹲る。
ないこが声を絞り出すが、体は鉛のように重く、一歩も動けない。
その時、闇の奥から一人の男が現れた。漆黒の法衣を纏い、手には不気味な鈍色に光る蓄音機を持っている。
男が蓄音機のレバーを回すと、そこから流れてきたのは「歌」ではなかった。
それは、人間の脳を直接かき回し、記憶の繊維を一本ずつ引きちぎるような、冒涜的な「ノイズ」だった。
特に、年齢が若く感受性の強い子供組の3人に、そのノイズは牙を剥いた。
りうらの瞳からハイライトが消え、ほとけの体から力が抜け、初兎の表情が憎悪に歪んでいく。
ないこが必死に手を伸ばすが、男が指を鳴らすと、3人の周囲に黒い霧が立ち込めた。
Ifが魔力を込めた拳で霧を殴りつけるが、霧は煙のようにIfをすり抜け、3人を飲み込んで消え去った。
後に残されたのは、静まり返った夜の道と、地面に落ちたりうらの愛用のマイクだけだった。
悠佑の声が、震えている。
リーダーとして、何があっても冷静でいようとしてきたないこの心も、音を立てて崩れていった。
最年少のりうら、ムードメーカーのほとけ、相方の初兎。
自分たちの光の半分が、一瞬にして奪われたのだ。
翌朝。いれいすの公式チャンネルに、一本の動画が投稿された。
本来ならスタッフが管理しているはずのアカウントだが、アクセス権は完全に奪われていた。
動画のタイトルは『【重大告知】いれいすの終焉と、真実の目覚め』。
ないこ、If、悠佑が震える指で再生ボタンを押すと、そこには見慣れたはずの、
しかし全く「別人」の3人が映っていた。
無機質な部屋の中、豪華な玉座に座るりうら。その左右に侍るほとけと初兎。
彼らの瞳は、かつての優しさを失い、冷酷な紫色に光っていた。
りうらが、氷のように冷たい声で話し始める。
ほとけが、かつてないほど鋭い、蔑むような視線を悠佑に向ける。
初兎の言葉には、かつての信頼など微塵も残っていなかった。
画面越しに突きつけられる、残酷な「言葉のナイフ」。
ないこは唇を噛み切り、血を滲ませながら画面を見つめた。
動画の最後、りうらが画面に向かって指を指した。
動画がプツンと切れる。
リビングには、重苦しい沈黙と、絶望だけが残った。
彼らが信じてきた「絆」が、今、最大の敵となって自分たちの前に立ちはだかろうとしていた。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。