スタジアムを支配する漆黒の結界が、外の世界の音を完全に遮断していた。
ファンが振るペンライトで溢れ返っていた客席は、今や濃密な闇に沈み、冷たい霧が足元を這い回っている。
ステージ中央。不気味な紫色のスポットライトに照らされた初兎は、
Ifを虫ケラでも見るような目で見下ろしていた。
初兎がマイク型の魔導銃を構える。
銃口から漏れ出すのは、精神を腐食させる禍々しい紫の魔力。
Ifの声は、連日の特訓でひどく掠れていた。だが、その瞳には初兎を逃さないという強い執念が宿っている。
男の合図と共に、初兎の背後に巨大なスピーカーが展開され、
スタジアム全体に「絶望の重低音」が響き渡った。
初兎が放つ言葉は、鋭い針となってIfの精神を直接突き刺す。
洗脳によって歪められた初兎のラップには、かつての韻の美しさではなく、
相手を呪い、消去しようとする破壊衝動が込められていた。
Ifが膝をつく。脳内に、初兎が自分を裏切り、嘲笑うような「偽の映像」が流れ込んでくる。
これが洗脳の力だ。相手の負の感情を増幅させ、信頼を絶望へと塗り替えていく。
初兎がトドメを刺そうと、銃口をIfの額に突きつけた。
至近距離。引き金を引けば、Ifの精神は完全に崩壊する。
Ifが血まみれの口元を歪めて笑った。
彼は、わざと初兎の攻撃を至近距離で受けるために隙を見せていたのだ。
Ifは初兎の銃身を素手で掴む。ジュッと肉が焼ける音がするが、Ifは離さない。
初兎が狼狽し、銃を引き抜こうとする。だが、Ifの握力は岩のように強固だった。
Ifが放ったのは、特訓で完成させた『共鳴浄化』。
彼の声は、もはや人間の喉から出ているとは思えないほどの振動を伴い、
初兎の精神世界に直接干渉を始めた。
初兎が頭を押さえて絶叫する。
彼の脳内で、組織に植え付けられた「偽りの憎しみ」と、
Ifと共に歩んだ「本物の記憶」が激しく衝突を始めた。
Ifは自らの喉が裂けるのも厭わず、全魔力を込めた一音を初兎にぶつけた。
ドォォォォォン!! という衝撃波がステージを駆け抜け、漆黒の結界にヒビが入る。
初兎の瞳から紫色の光が消えかけ、元の優しい色が混ざり合った、その瞬間。
背後から放たれた冷徹な炎が、Ifを吹き飛ばした。
吹っ飛んだIfの体を受け止めたのは、悠佑だった。
ステージの奥から現れたのは、真っ赤な炎を纏ったりうらと、感情を失った瞳のほとけ。
ほとけが杖を振ると、スタジアムに巨大な水の牢獄が出現した。
Ifは意識を失い、ないこが彼を介抱する。そして、悠佑が一人、前に出た。
スタジアムの温度が急激に下がり始めた。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。