第5話

氷の檻と紫の弾丸
85
2026/05/04 09:00 更新
スタジアムを支配する漆黒の結界が、外の世界の音を完全に遮断していた。
ファンが振るペンライトで溢れ返っていた客席は、今や濃密な闇に沈み、冷たい霧が足元を這い回っている。
ステージ中央。不気味な紫色のスポットライトに照らされた初兎は、
Ifを虫ケラでも見るような目で見下ろしていた。
sS 白 紫
…まだ分からんの? まろちゃん
sS 白 紫
あんたの声なんて、もう僕の鼓膜を震わせることすらできへん
無駄な足掻きはやめてそのまま楽になってほしいんや
初兎がマイク型の魔導銃を構える。
銃口から漏れ出すのは、精神を腐食させる禍々しい紫の魔力。
iI 青 碧
…俺が知ってる初兎は、そんな冷たい目はしてへん
iI 青 碧
お前、あいつをどこへやったんや
Ifの声は、連日の特訓でひどく掠れていた。だが、その瞳には初兎を逃さないという強い執念が宿っている。
???
???
『――処刑ライブ、開始
思う存分、愛する人を壊すがいい』
男の合図と共に、初兎の背後に巨大なスピーカーが展開され、
スタジアム全体に「絶望の重低音」が響き渡った。
sS 白 紫
♪ーー〜!ーーー
初兎が放つ言葉は、鋭い針となってIfの精神を直接突き刺す。
洗脳によって歪められた初兎のラップには、かつての韻の美しさではなく、
相手を呪い、消去しようとする破壊衝動が込められていた。
iI 青 碧
ぐっ……ぁ、がはっ……!!
Ifが膝をつく。脳内に、初兎が自分を裏切り、嘲笑うような「偽の映像」が流れ込んでくる。
これが洗脳の力だ。相手の負の感情を増幅させ、信頼を絶望へと塗り替えていく。
sS 白 紫
…ほらな、もうあんたの心ボロボロや
僕の勝ちやな
初兎がトドメを刺そうと、銃口をIfの額に突きつけた。
至近距離。引き金を引けば、Ifの精神は完全に崩壊する。
iI 青 碧
…ははっ……お前やっぱり甘いな、初兎
sS 白 紫
…何やと?
Ifが血まみれの口元を歪めて笑った。
彼は、わざと初兎の攻撃を至近距離で受けるために隙を見せていたのだ。
Ifは初兎の銃身を素手で掴む。ジュッと肉が焼ける音がするが、Ifは離さない。
iI 青 碧
初兎、お前さっき『絆は幻想』って言ってた気がするんやけど?
sS 白 紫
…なんで聞こえてるんや
iI 青 碧
聞こえんくらい小さい声でもわかるんよ
iI 青 碧
…で、お前そんなこと言ってたんになんでマイク震えてるんや?
sS 白 紫
…っ! ええから離せ! 離せって言うてるやろ!!
初兎が狼狽し、銃を引き抜こうとする。だが、Ifの握力は岩のように強固だった。
iI 青 碧
…思い出せ、二人で朝までリリック書いた時お前言ったやろ
『まろちゃんのラップが隣にあるから、俺は最強になれるんや』って
iI 青 碧
あの日、お前が流した涙まで、幻想やって言うんか!!
iI 青 碧
♪〜〜ーー〜!ーーー!!
Ifが放ったのは、特訓で完成させた『共鳴浄化』。
彼の声は、もはや人間の喉から出ているとは思えないほどの振動を伴い、
初兎の精神世界に直接干渉を始めた。
sS 白 紫
ぁ、ぁぁぁああ!! 頭が……割れる……っ! 
sS 白 紫
嫌だ、来るな……! その記憶を…見せるな!!
初兎が頭を押さえて絶叫する。
彼の脳内で、組織に植え付けられた「偽りの憎しみ」と、
Ifと共に歩んだ「本物の記憶」が激しく衝突を始めた。
iI 青 碧
…戻ってこい、初兎!! 
お前の居場所は、闇の中やない! 俺の隣や!!
Ifは自らの喉が裂けるのも厭わず、全魔力を込めた一音を初兎にぶつけた。
ドォォォォォン!! という衝撃波がステージを駆け抜け、漆黒の結界にヒビが入る。
sS 白 紫
っ……ま、ろ…ちゃん…?
初兎の瞳から紫色の光が消えかけ、元の優しい色が混ざり合った、その瞬間。
l L 赤 赫
はぁ…邪魔だよ、Ifさん
背後から放たれた冷徹な炎が、Ifを吹き飛ばした。
iI 青 碧
がはっ……っ!!
吹っ飛んだIfの体を受け止めたのは、悠佑だった。
ステージの奥から現れたのは、真っ赤な炎を纏ったりうらと、感情を失った瞳のほとけ。
l L 赤 赫
初兎ちゃんは下がってて
l L 赤 赫
やっぱり、この人たちは『言葉』じゃ分からないみたい
……徹底的に、壊してあげる
H h 水 瑞
…次、アニキの番ね…さよなら
ほとけが杖を振ると、スタジアムに巨大な水の牢獄が出現した。
Ifは意識を失い、ないこが彼を介抱する。そして、悠佑が一人、前に出た。
Yy 黒 黄
…If、よくやった…あとは俺に任せろ
Yy 黒 黄
ほとけ、お前のわがまま
全部聞いてやるから……かかってこい!!
H h 水 瑞
ふふっ…手加減しないよ?
スタジアムの温度が急激に下がり始めた。

プリ小説オーディオドラマ