第32話

SIDE.T
294
2025/11/25 09:00 更新
天馬司
…、ここは、どこだ?
目を覚ますと、そこは白い霧で覆われた不思議な場所だった。
あたり、白、白、白。
その間からちらちらと誰かの声が聞こえる。
どこかで聞いた、懐かしい声。
天馬司
とりあえず、進んでみるか
ひとまずここにいても埒が明かないので、そこら辺を探索してみることにした。
天馬司
本当に何もないな…
真っ白な霧がまるでオレの見つけたいものを隠しているようで、ぐしゃぐしゃと景色をかき乱している。
しばらくすると、さっきの白い霧とは打って変わって、真っ黒な靄が出てきた。
霧と靄の違いなんていうのはあまりよくわからないが、それは確かに靄、と言えるものだった。
しかしそれは、オレの事を拒んでいるようだった。
まるで「触るな」と言いたげに蠢く黒い靄。
でも、触らないと、何も始まらないような気がした。
天馬司
…入ってみよう
一足、その黒い靄に足を踏み入れた。
ーー目の前の靄が晴れると、そこは神山高校だった。
オレがずっと通っているあの高校。
なんの変哲もない、ただの高校。
ただ、オレにとってはトラウマでしかない場所だった。
天馬司
おえっ…!
その場にしゃがみ込んで吐きそうになる。
けれどこれが何かの舞台だとするなら、舞台に乗らなければ演劇は始まらない。
天馬司
入るしか、ないよな…
覚悟を持って神山高校に足を踏み入れる。
どうせならそのまま誰もいないといいが…。
モブ
よっ、天馬おはよう!
天馬司
あ、ああ、おはよう
教室に入れば、クラスメイトが普通にいた。
そりゃあそうだよな、教室にはクラスメイトがいる。
それになぜ怯えるのか。
至極当たり前のことに怯えている自分が馬鹿馬鹿しかった。
それとも、彼らに怯えなくてないけない理由でもあるのだろうか。
天馬司
(なぜこんなに、怯えてるんだ…)
そもそもなぜ想い出ーーまあ大半は類に飛ばされた記憶だが。があるのにここを怯える必要がある?
その理由は、一瞬で分かった。
ドンッ
天馬司
グハッ…
モブ
よーぉ、
モブ
元気か?
天馬司
ぇ…
突き飛ばされた。ちょうど踏ん張れば椅子の足に引っかかって確実に転ぶ場所で。
モブ
何で来てるのかな?クソいじめっ子さん
モブ
さっさと失せろよ
天馬司
俺は、いじめなどしてない!
モブ
何でだよ。後輩にカタキャしたのたくさんのやつが見てるんだぜ?
モブ
事実は覆せないよなぁ⁈
ゴンッ
頭上から国語辞書が降ってきた。
天馬司
っ…!
痛みのあまり立ち眩む。
不意に、誰かが叫んだ。
モブ
や、やめろよそんなの!
モブ
それこそいじめだろ!
モブ
あ?これは真っ当な制裁だ
モブ
お前も制裁を受けたいのか?
モブ
くっ…
反論したクラスメイトが黙り込む。
そりゃそうだ。誰でも自分はいじめられたくない。
…ああ、思い出した。
オレは、いじめられていたんだ。
だから、学校はトラウマになっていたんだ。
咲希にも心配かけて、寧々や冬弥も嫌な目に遭って、オレさえいなければ、起こらなかった。
天馬司
(こんな散々な状況、作らなかったんだ…)
オレのせいで、KAITOやミクも消えた。
オレのせいで、類にも心配をかけた。
オレのせいで、えむも不安にさせてしまった。
オレのせいで、オレのせいで、オレのせいで、オレのせいで、オレのせいで、オレのせいで、オレのせいで、オレのせいで、オレのせいで、オレのせいで、オレのせいで、オレのせいで、オレのせいで、オレのせいで、オレのせいで、オレのせいで、オレのせいで、オレのせいで、オレのせいで、オレのせいで、オレのせいで、オレのせいで、オレのせいで、オレオのせいで、オレのせいで、オレのせいで、オレのせいで、オレのせいで、オレのせいで、オレのせいで、オレのせいで、オレのせいで、オレのせいで、オレのせいで、オレのせいで、オレのせいで、オレのせいで、オレのせいで、オレのせいで、オレのせいで…!
???
なあ、全部任せればいいじゃないか
天馬司
(だ、誰だ?)
その時、周りに居たクラスメイト達も教室も全部消えて、オレが最初に目覚めた場所に戻っていた。
天馬司
お前は、誰なんだ?
???
俺か?俺は…
ブレス
お前の別人格とでも言えば早いか?
天馬司
別人格…?
ただの声だった存在は、
不意にオレの目の前に姿を現した。
オレとそっくりな形相。
違うところは、服や髪型、口調ぐらいか。
まるでオレのドッペルゲンガーと言っても違和感がない
ブレス
まあそう言われてもピンと来ないだろうな
ブレス
簡単に言ってしまえば俺は、お前の身代わりだ
天馬司
身代わり…
ブレス
だから、お前は俺に全て委ねればいい
天馬司
お前はどうなるんだ…?
ブレス
俺か?俺は大丈夫だ
ブレス
お前を守るためだけに生まれてきた
ブレス
何も考えなくていい
ブレス
ゆっくり眠ってろ
天馬司
でも…
懐柔してくるような態度に恐怖感を覚え、反論する。
オレの身代わり?別人格?そんなの聞かされておちおち眠れるわけがない。
それにお前はオレと同じ姿をしている他人にすぎない。
信じれるはず無かった。
すると、彼は余裕そうに笑っていた表情を崩して、静かにオレに語りかけてきた。
ブレス
…なあ、お前はもう十分頑張ったんだ
ブレス
何をそんなにまだ頑張る必要がある?
ブレス
いいお兄ちゃんでいて、
ブレス
みんなから好かれる優等生でいて、
ブレス
仲間を引っ張る頼もしい座長でいて、
ブレス
お前のキャパがもう足りない
ブレス
俺は、お前が壊れないようにただ身代わりをするぐらいしかできないんだ
ブレス
やめてくれよ
ブレス
もう、さっさと眠ってくれ…!
それは、悲痛な叫びだった。
やめてくれと、眠れと、懇願していた。
天馬司
(信じても、大丈夫だろうか…)
そう思えば、答えはもう出ていた。
天馬司
…分かった
ブレス
⁉︎…ありがとう
天馬司
ただ、お前も壊れるなよ?
ブレス
俺はそんなすぐに壊れるほどやわじゃない
天馬司
…なら、信じて、オレは眠るからな
ブレス
ああ…、すまない
ブレス
一つ、言っておくことがある
天馬司
何だ?
そう聞き返すと、彼は決心したような表情でこう告げた。
ブレス
もしお前が壊れないぐらいに落ち着いたら、俺はお前に記憶を渡す
ブレス
さっきお前が見てきたトラウマの全てをだ
天馬司
…うむ…
ブレス
克服できないままじゃダメだからな
天馬司
そう、だよな…
ブレス
その時には俺はもういないと思う
ブレス
でも、きっと大丈夫だ
彼は少し微笑んで話す。
ブレス
お前にはお前のことを想ってくれてる仲間達がいる
ブレス
お前の味方はちゃんといる
ブレス
もし記憶を受け取って壊れかけても、
ブレス
絶対に助けてくれる
ブレス
だから
天馬司
…だから?
聞き返すと、彼はオレの頭を優しく撫で、まっすぐ目を見てこう言った。





























ブレス
その時は頑張れよ、司


そう告げて彼はそのまま居なくなってしまった。
天馬司
(あれ、唐突に眠気が…)
視界がゆっくりと狭まっていく。
オレは、ねむ…て………








































………………………
幾らかの時が過ぎて、聞こえてきた声。
考えることをやめて、偽っていた感情を捨てて
何も無くなったオレに届いたことば。







「きっと、今度は僕が君を笑わせて見せるから」































あれは、誰のことばだったのだろう
続く

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