それは、ころんが小学生の頃。
キッチンの方がなにやら騒がしいな、と感じた矢先だった。
可愛い笑顔のころんの手に握られていたのは...、
包丁、だった。
無理矢理取り上げるわけにもいかず。
どうしたら安全に取り上げられるか、と考えていると、
誤って、自分の指を切り付けようとしていたところだった。
包丁は無事、取り上げられ、俺の腕にはころんがいる。
びくっ、と体が反応する。
目に涙を溜め、
と泣き始めてしまった。
相手は幼い子供。
大声を聞いて、泣き出してしまうのは当然だった。
完っ全に俺の配慮不足...
顔を真っ赤にし、小さな手で涙を拭った。
その動作が、なぜか愛らしくて。
子供が泣いて、親が幸せそうに慰めている気持ちが、なんとなくわかった気がした。
さらに泣かせてしまう始末。
今度はこっちが、泣いてしまう番だった。
サラサラの髪の毛を崩さんばかりに、大きく撫でた。
こくっっ!!と、大きく頷いた。
今度はもっと大きな手で、涙を拭ってやった。
溢れんばかりの笑顔で、頷いた。
俺は、世界一幸せなんじゃないか。
そう、初めて思った瞬間だった。
その後。
子供用の包丁を買ってあげた、さとみくんでした。
久しぶりの投稿が、番外編になってしまってごめんなさい🙇
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!