あなた side
食後のコーヒータイム、といったところで、
動揺した健四郎と千景の声が耳に届く。
何かと思い、僕はコーヒーの水面から顔を上げると、
顔を顰めた健四郎と千景の顔が目に入り込んだ。
その視線を追いかけると、
ノンストップでシュガーパケットを破り、砂糖を
コーヒの中へドバドバ音を立てながら入れる僕を、
健四郎と千景がガン見していた。
__________そういうことか。
引いたように顔を引き攣らせる千景。
「慣れつつある」と口にする健四郎。
二人の反応に、僕はあえて表情を崩さず、
無言のまま視線を向けた。
机の上では、破られた砂糖の包装紙がかさっと音を立て、
白い粉が次々とコーヒーの黒に溶け込んでいく。
「もう少し控えろ」「ストップ」「いや、まだいけるよ」
軽口の応酬が続く中、突然、ふっ、と三人の間に影が落ちた。
蛍光灯を背にした存在に、自然と会話が途切れる。
穏やかな声が落ちてくる。
顔を上げると、コトリ、と音を立ててたくさん料理がのったお盆を机に乗せる。
そして、「おはよう」とにこやかに笑う
蛍火幽の姿があった。
丸みのあるラウンドマッシュの髪が額にかかり、
大きな瞳が印象的な、
どこか幼さの残る可愛らしい顔立ち。
けれど、すっと伸びた背は僕よりほんの数センチ高く、そのギャップが妙に目を引く。
音を立てないように椅子を引き、慎重に腰を下ろす所作は、驚くほど丁寧で、無駄がない。
その一連の動きだけで、彼の人柄が静かに伝わってくる気がした。
どっちにしろ、入れすぎたら病気になるけどね
そう最後に付け加え、「いただきます」と手を合わせる幽に
僕はポカンと見つめることしかできなかった。
では、今入れている砂糖はカロリーの塊...
僕はすぐさま今入れていた砂糖の運搬を中止する。
朝の楽しみといえばこの「無限砂糖入れまくり」だったのに……。
僕はため息を吐きながら、大量の砂糖が入ったコーヒーを啜った。
四人揃って手を合わせ、お盆を食器返却口へと返す。
寮へと続く通路を歩きながら、
各々食後の感想を口にしていた。
美味しかっただの、量が少なかっただの、
そんな他愛のない言葉が行き交う。
健四郎と千景は図体が大きいから、
たくさん食べるのもわかる。
けれど、幽が二人の倍は食べている光景は、
どうしても納得がいかなかった。
胃袋がブラックホールなんじゃないかと思うほどだった。
実際、僕たちが箸を置いても、
幽だけ箸を置く気配が感じられなかった。
今も「まだいけた」とどこか誇らしげに呟いている。
千景は渋いものが好きだからか、
「今人気の秋刀魚の内臓も食べれたな」
と言いながら腹をさすっていた。
僕はその呟きに「君何歳?」と呟けば、頭をペシッと叩かれた。
健四郎も大食いな方で、
朝から辛いものを大量に食べていたのを思い出し、
体は大丈夫かと心配になる。
確かあれ食べれるのって
健四郎しかいなかったな……
と少し遅れて気づいた。
それに加え、あの料理って健四郎のために作られたものだったな……とも思った。
そんなことを、三人の後ろを歩きながら考えていると、
ピロン
とポケットの中で、スマホが着信を知らせる音を立てた。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!