第44話

✧︎コート外の試練
2,225
2025/09/29 10:52 更新
✧︎五色の雷恐怖症です
✧︎それでもいい方はどうぞ!!

❥・•

​その日の夜は、梅雨明けを思わせるような激しい夕立だった。夜遅くになり、稲光と雷鳴が轟き始めたとき、五色はベッドの中で縮こまっていた。

​五色は、人一倍負けん気が強く、コートの上では向かうところ敵なしとばかりに自信満々だが、こと雷となると話は別だ。幼い頃のトラウマからくる雷恐怖症で、その轟音を聞くたびに身体が硬直し、呼吸が浅くなる。

​激しい雷鳴が寮の部屋を揺らした瞬間、五色は思わず布団を被り、息を殺した。しかし、一度始まると止まらない。稲妻が走るたびに部屋が一瞬真っ白になり、間髪入れずに地面を叩きつけるような轟音が響く。

​「ひゅっ……は、ぁ……」

​五色の胸は激しく打ち鳴り、過呼吸の初期症状が出始めた。全身の力が抜け、手足が冷たくなっていく。

​「や、め……っ、やめ、て……」

​恐怖と息苦しさで、五色の目からは生理的な涙が溢れ出した。声を上げたくても、喉が締まって息だけが漏れる。パニックになり、布団の中で身体を丸めて震えることしかできなかった。

❥・•

​その異変に最初に気づいたのは、隣室の白布だった。
あまりにも激しい雷鳴と、壁越しに聞こえる規則的でない小さな異音に、白布は不審を覚えた。

​ノックもせず、白布が五色の部屋のドアを勢いよく開けると、そこには布団の塊の中で震え、浅く速い呼吸を繰り返す五色の姿があった。

​「五色!おい、大丈夫か!」

​白布が慌てて駆け寄り、布団を剥がすと、五色の顔は涙と脂汗でぐしゃぐしゃだった。

パニックで焦点の定まらない目で白布を見上げ、五色はか細く泣きじゃくっている。

​「過呼吸か……落ち着け、五色。ゆっくり息を吐け!」

​白布はまず、五色の手を握り、自分に意識を向けさせた。
次に、自分の呼吸をわざと深く、ゆっくりとしてみせ、「俺に合わせて、ゆっくり吸って……ほら、ゆっくり吐く。大丈夫だ、雷なんてただの音だ」と繰り返し声をかけた。

​状況を察した川西が部屋に入ってきて、白布に水とタオルを差し出す。そして、五色の部屋の電気をつけて、少しでも外の暗闇と稲光を遮断するようにした。

​「ほら、五色。少し顔冷やせ」

​川西が絞ったタオルで五色の額を拭い、白布は五色の背中を規則的に摩り続けた。
上級生二人に囲まれ、安心感と、身体を摩られる温かさで、五色は少しずつ呼吸を取り戻していった。

​数分後、五色の荒い呼吸は嘘のように落ち着いた。
しかし、恐怖から解放された安心感で、今度は堰を切ったように嗚咽が漏れ出した。

​「うっ……ああ……こわか、っ、た……!」

​声を押し殺すことなく、五色は子どものように泣き出した。普段の自信満々なエース候補からは想像もつかない、
情けない姿だった。

​白布は何も言わず、ただ五色の背中に手を当てていた。川西も、静かに五色のペットボトルに水を入れて差し出した。

​「…大丈夫だ。もう、落ち着いたか?」

​雷鳴の合間に、白布が静かに言った。その声はいつもより優しく、五色は泣きながらも、その温かさに感謝した。

​しばらくして、五色が涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げた。

​「す、すみません……お、俺、エースなるのに……」

​「エースだろうがなんだろうが、怖いもんは怖いだろ」
と白布はため息交じりに言ったが、表情は穏やかだった。

「いいからもう寝ろ。俺たちはここにいるから」

​白布と川西は五色が再び眠りに落ちるまで、その部屋に留まった。

​翌朝、五色は二人に向かって頭を下げたが、白布は「馬鹿。口外したらぶっ飛ばす」と一言残して去っていった。しかし、その顔はどことなく穏やかな顔をしていた。

​雷恐怖症は治らないかもしれないが、五色は知った。
自分がどんなに情けない姿を見せても、この白鳥沢のチームメイトたちは、静かに、そして力強く自分を支えてくれるのだと…………。

❥・•

プリ小説オーディオドラマ