電車が揺れる。
吊り革を握る手に少し力が入る。
目の前にハオがいる。
それだけで、妙に落ち着かなかった。
zh「仕事帰り?」
hb「……うん」
zh「大変そうだね」
hb「まあ普通」
会話は普通だった。
昔の知り合いと偶然会っただけ。
それだけのはずなのに、変に意識してしまう。
hb「……」
視線を向けそうになって、やめる。
顔を見ると、どうしても思い出す。
あの夢。
zh「ねえ」
hb「……なに」
顔を上げる。
思ったより近かった。
hb「……」
少し距離を詰められていた。
いつの間にか、電車の揺れのせいじゃないくらい近い。
zh「久しぶりなのにさ、全然目合わせてくれない」
hb「……別に」
zh「避けてる?」
hb「避けてない」
すぐ答えたのに、少し間があいた。
ハオがじっと見てくる。
zh「変わったね」
hb「……どっちが」
zh「ハンビン」
hb「そうか?」
zh「うん」
少しだけ首を傾げる。
昔と同じ仕草だった。
なのに、妙に落ち着かない。
zh「なんか考えてる顔してる」
hb「してない」
zh「してるよ」
hb「してないって」
少しだけ笑われる。
その瞬間、胸の奥がざわつく。
浮かぶ。
夢の中の顔。
振り向いた時の目。
zh「ねえ」
hb「……なに」
zh「本当に久しぶりだよね」
hb「……だな」
zh「最後いつ会ったっけ」
hb「覚えてない」
zh「そっか」
少し沈黙が落ちる。
電車が揺れる。
肩が軽く触れた。
hb「……っ」
一瞬だけ息が止まる。
zh「ごめん」
hb「……別に」
離れるかと思ったのに。
離れない。
近い。
近すぎる。
なのに嫌じゃなかった。
hb「……」
むしろ少し落ち着く。
自分でも分かる。
hb「……最悪」
zh「なにが?」
hb「なんでもない」
ハオが少し覗き込む。
zh「顔赤いよ」
hb「赤くない 」
zh「赤いって」
hb「うるさい」
また少し笑う。
その笑い方も変わってなかった。
zh「ねえ」
hb「なに」
zh「連絡先交換しない?」
hb「……え」
一瞬止まる。
zh「せっかく会ったし」
hb「……」
迷う理由なんてないはずなのに。
少しだけ考える。
hb「……」
また浮かぶ。
夢の光景。
静かに立ってるハオ。
hb「……いいよ」
言ってから、少し後悔する。
zh「ほんと?」
hb「うん」
zh「やった」
スマホを取り出す。
距離がまた近くなる。
hb「……」
画面を打つ指のすぐ横に、ハオの手がある。
思ってしまう。
もし、またあの顔を見たら。
zh「できた?」
hb「……ああ」
スマホを戻す。
その時、電車が止まるアナウンスが流れた。
zh「あ、俺ここ」
hb「……そう」
zh「じゃあね」
hb「……ああ」
ドアが開く。
降りる直前。
ハオが振り向いた。
zh「またね」
hb「……」
ドアが閉まる。
電車が動く。
hb「……」
残ったのは、さっきまでいた距離感だけだった。
hb「……ほんと最悪」
ポケットの中のスマホが重い。
もう分かってた。
また会う気がする、そして多分。
hb「……期待してるし、」
小さく呟いた。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。