現在、私のアパートから徒歩約5分ほどの距離にある、無一郎のアパートに来ている。
本当は面倒だったけど、毎回小テストを行う授業のノートだったので、仕方なく!持ってきてあげた。
そう、仕方なく!
部屋の前にあるインターホンを押して約10秒。
気配なし。
もう一度押して約10秒。
気配なし。
わざわざ持ってきてあげたのにこの仕打ち。
がっくりと肩を落とし、ドアポストにノートを入れようとした時、いきなりドアが開いた。
長髪が視界の端に映ったので、文句を言ってやろうと顔を上げると、無一郎ではなかった。
中から出てきたのは、綺麗な女の人。
普通は驚くだろうけど、"またか。"しか思わない。
その女の人はきつい香水をぷんと匂わせ、ヒールをコツコツと鳴らしながら階段を降りていった。
そして、部屋の奥からやっと無一郎が出てきた。
誘われてすぐに断った。
上半身裸+香水の匂いで、さっきまで行為に及んでいたことが分かる。
そんな部屋に入りたくもない。
そう、これが、私が無一郎を好きにならない一番の理由。
女たらしなのだ。
モテる理由がいくら眩しくても、マイナスポイントが大きすぎる。
無一郎は私の頭をぽんぽんとし、急いで部屋の奥に消えていった。
送ってくれるなら、取りに来てほしかった。
そう思ったけど、未だに鼻の奥に残る香水の匂いで、"無理だった"ということが頭をよぎった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!