※ここから文体が変わります。
白い建物を壁沿に進んでいくと、やがて小さな扉にたどり着いた。大きさは、ざっと私の身長くらいだろうか。
アキさんはしゃがまないと入れなさそうだ。
「入ってみていいのかなぁ⋯」
虹乃がワンピースの裾をくいと引っ張って、言った。
ちなみにアキさんは、さっきから「この壁めちゃくちゃ肌触りいいんだけどぉ…ヤバい…」と言いながら壁をぺたぺた触っているのであまりあてにはならないだろう。
「……別に…」
私は扉を見上げた。鍵穴は見当たらないし取っ手もない。
それでも扉だと分かるのは、まるで白い壁にそのままカッターを走らせたように溝があったからに過ぎない。
そもそもどう開くのかさえ見当もつかなかった。
「入りたいなら入ればいいんじゃない?」
でも私は虹乃についていく。
そう言わんばかりに虹乃をちらりと見ると、虹乃は柔らかい笑みを浮かべた。
「ナナセ、雑だなぁ」
「人生そんなもんでしょ」
「高校生が言うことじゃないってぇ!」
と、壁を撫で回していたアキさんがようやくこっちへ来た。
「いやでもさ、こういうのって普通、調査してから入るやつじゃん?」
「調査って?」
「ほら、石投げるとかさ」
「石……」
さっきまで壁をべたべた触っておいて今更かと思ったが言わないことにした。虹乃は真剣だったからだ。
虹乃が辺りを見回す。
ちょうど足元にあったれんが片を一つ拾って、恐る恐る扉の前へと放った。
虹乃の手から綺麗な放物線を描いてころころ、と音を立てて転がる。
何も起きない。
「セーフ?」
「セーフっぽい」
「じゃあ次」
アキさんは擦り切れたリュックから折りたたみ傘を取り出した。
「なんで傘」
「こういう時に便利だから」
「そんな機会あるんですか?」
「終末になってから三回くらいあったよ!」
「あるんだ…」
アキさんは傘の先で、つん、と扉を突く。
こん、と乾いた音がした。
やっぱり何も起きないままだ。
「ふむ」
アキさんは腕を組んで唸った。
「分からん!」
「分からんかぁ」
あはは、と虹乃が笑う。
私はなんとなく一歩前へ出た。
扉に手を伸ばして触れてみる。
思っていたより温かいことに少し驚いた。
人肌というより、春の日向に置いてあった石みたいな温度だ。
「……」
そのまま押してみる。
抵抗は、ない。
音もなく扉は内側へ滑るように開いた。
いや…溶けるように消えていったと表現するのが正しいのかもしれない。とりあえず、爆発して虹乃を巻き込んだりしなくて良かったなと虹乃たちのところへ戻った。
「開いた…」
「開いたね」
「開いたなぁ」
三人でしばらく入口を眺める。
中は暗い。いや、暗いというより——
白かった。
壁も。
床も。
天井も。
全部が白い。
「豆腐の中みたい」とアキさんが呟く。
光源も見当たらないが、眩しくない程度に光が差していた。
「なにこれ…」
虹乃は一歩踏み出しかけて、ぴたりと止まった。
「どうした?」
「……なんか」
虹乃は首を傾げる。
「音が吸収されちゃうみたい」
言われて、外が恐ろしく静かなことに気がついた。
まるで透明の見えない壁がそこにあるかのように。
風の音がしない。
外では鳴いていた鳥も。
草を揺らす音も。
自分たちの足音さえ、少し遠く聞こえる。
私は入口の境界に立ったまま、中を見つめる。
入っても、入らなくてもどちらでもいい。
ここで死ぬなら、それも運命だ。
そう思って、一歩踏み出そうとした、その時だった。
どこからともなく、透き通った声が響いた。
「──来訪者を確認しました。」
三人とも動きを止める。
機械のようにも、人のようにも聞こえる、だけども柔らかいような懐かしいような…不思議な声だった。











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。