第7話

「なんで、お前ばっかり気になるんだよ」
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2025/04/26 09:00 更新
夏の夜風が軽く肌を撫で、街灯の明るさに誘われた蛾がその周りを飛び回っている。帰り道の静かな空気は、及川とあなたの間の微妙なズレをさらに際立たせていた。先ほどまで交わした言葉が、胸の奥に残った重い余韻をともしている。
あなた
なあ及川、そろそろちゃんと休んだほうがいいんじゃない?
あなたが口を開くと、及川は眉を寄せて少しズボンのポケットに手を突っ込む仕草をした。気遣われるのが苦手な彼の反応は分かりきっていたけれど、言わないわけにはいかなかった。
及川徹
そんなのわかってるよ。でもさ、ほら、俺って頑張っちゃうタイプじゃん?
頬を指で軽く擦る仕草を交えながら、わざと明るく振る舞おうとしている。けれどその声には、疲れを無理やり隠すような響きが含まれていた。
あなた
なら、なんで無理するの?
その言葉は、思わずすべり出てしまったものだった。感情を抑えきれずに投げかけた問いだったが、その瞬間、及川の足が止まった。
及川徹
お前には関係ないだろ。
静かに放たれた言葉は、いつもの彼の調子とはまったく違うものだった。思わず聞き返したくなるほどの冷たさと切なさ。それでも、次の言葉を待つよりも早く、及川は言葉を続けた。

及川徹
……いや、違う。関係なくないんだ。
彼が肩越しに振り返り、こちらを見る。その目には、これまでと違う迷いと優しさが浮かんでいた。
しばらくの沈黙が続いたあと、及川は一歩、また一歩とあなたの方へ歩み寄った。その瞳には、苦悩と決意が入り混じったような光が宿っている。
及川徹
なあ、お前ってさ、普通に隣にいるだけで俺のテンション上がるんだけど、これってさ、ズルくね?
言葉はどこか軽い調子でありながら、その真剣さを隠しきれていない。肩をすくめながら言う仕草に、及川の照れ隠しが見え隠れする。
及川徹
なんでだろうな?ずっと考えてるんだ。お前とは幼馴染でずっと一緒にいて、いなくならないって分かってる。
及川徹
だから大事だって思ってる。でもさ、それだけじゃないんだよ。
自分でも整理できない感情をどうにか相手に伝えようとする及川。その姿は、いつもの自信に満ち溢れた彼とはまるで違っていた。そして、そのギャップがどこか愛らしくも映る。

あなたは、その場で立ち尽くしたまま彼の言葉を聞いていた。言葉が胸に直接突き刺さるような感覚とともに、知らず知らずのうちに強く握りしめられた手が、汗ばんでいるのがわかる。
及川徹
お前がいると、なんか安心するんだ。どんなにキツイ練習だって、お前と話すだけでなんだか楽になる。でも、それだけじゃなくて……
及川徹
俺、お前がいないと変になっちまう気がするんだよ。
及川の声が少し震えた。そのトーンには、いつもの自信の裏に隠されていた弱さが溢れている。そして、その言葉は、どこか甘えたようにも聞こえた。
及川は短く笑いながら続ける。「俺って、結構頑張っちゃうタイプの王様って思われてるでしょ?でもさ、実はお前には一番弱いところが見られちゃってるって思うと、ほんと余計なこと考えちゃうんだ。」

その甘えたような声に、あなたの胸は妙に暖かくなる。それを感じている自分に気づいてさらに戸惑う。
及川徹
……だからさ。
及川がさらに一歩歩み寄り、あなたの顔を見る。その瞳には、彼らしい皮肉も余裕もなく、ただ正直な思いが浮かんでいた。
及川徹
何言えばいいかわかんねえけど、俺がちゃんとするからさ。お前には、俺の隣にいてほしい。
その言葉は、不器用で、及川らしい少しの甘ったれ感と、確かな真剣さが混じったものだった。けれど、だからこそ胸に響いた。
あなたは驚きを隠せなかった。意識を向けていなかったわけではない。むしろ、最近になって彼との微妙な距離感に戸惑っていたのは自分自身も同じだった。けれど、それがこうして形になって目の前に現れるとは思っていなかった。

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