雪がこんこんと降り積もり冷え込む中、十二人の者が一つの部屋に集まっていた。
ここは師走という名前がついた里であり、冬は寒いことで有名な土地だ。
今日は大晦日。一年の締めくくりの日となる今日、それぞれの里の長たちが集まって会合を開くのだ。
そして話し合う。たとえば、来年の催しのことや、国の情勢のこと。
今上がっている話題は、平和な日常を脅かす陰謀が最近渦巻いていると言う不穏な噂についてだった。
畳の上には様々な人間がいる。
毎度の会合の主催者が座る大きな蟹が描かれた屏風の前には黒髪の少女が座っている。
今回が初めての会議で緊張しているのか、何回も深呼吸を繰り返している。
その横、傘を刺した男が描かれた屏風の前には男が座っていた。
なかなか進まない会合に苛立っているのか、先ほどの少女を睨んでいる。
その横、紅葉の山を踏み歩く鹿が描かれた屏風の前にはゆったりした容姿の女が座っていた。
穏やかな目で、その屋敷に入り込んでいたらしい子猫を撫でている。
その横、菊と盃が描かれた屏風の前には女と見間違うほど美しい男が座っていた。
姿勢を崩さずにただ静かに景色に見惚れている姿はまるで花のようだ。
その横、薄から覗く大きな月が描かれた屏風には男が座っていた。
これといった特徴のないその男は、何かが書かれた紙を何度も確認するように見ている。
その横、萩の道を進む猪が描かれた屏風の前には若い男が座っていた。
寒さに弱いのか、震えながら時折くしゃみをしている。
その横、牡丹の花の周りを遊ぶように飛ぶ超が描かれた屏風の前には段違いに綺麗な女が座っていた。
手鏡を見ては自分の化粧が落ちていないか確認している。
その横、小さな橋の周りに咲く紫色の菖蒲が描かれた屏風の前には幼い男の子が座っていた。
やけに肝が据わっており、大人たちに囲まれていても怯える素振りも見せず冷静だ。
その横、藤の周りを飛び回る杜鵑が描かれた屏風の前には難しい顔をした年配の男が座っていた。
顔に皺もよっているが目だけは現役そのもので、凛とした表情をしている。
その横、桜並木の間を流れる川が描かれた屏風の前には気さくそうな女性が座っていた。
目の前に置かれた師走の里特製の珍しい洋菓子を食べる機会を狙っているようにも見える。
その横、梅に止まって囀る鶯が描かれた屏風の前には笑顔で場を見つめる男が座っていた。
姿勢を崩し、どこか読めない雰囲気を纏っている。
そして、その横。松の木の間で一つ鳴く鶴が描かれた屏風の前には白髪の少女が座っている。
変わった容姿をしており、我々人間でいう手の部分が翼のような形をしている。
話題を出すのに困っている様子の黒髪の少女に、白髪の少女は助け舟を出した。
彼女の名を、鶴鳴 睦月と言った。
彼女もまた、睦月と名前のついた里の長なのである。
睦月の前で申し訳なさそうに手を合わせる少女。
彼女こそが、さきほど困っていた黒髪の少女である。名は師走 沢。
会合は先程睦月の機転により終了し、不穏な噂については様子を見ようということに落ち着いたのだった。
今にも抱きつかれそうな勢いで迫られ、睦月は少し驚きながらも笑って返す。
沢は元は普通の家庭で育ったが、普通の人間が見えないものを見ることができる能力ゆえに若くして里の長になったという珍しいタイプの人間なのだ。
睦月は代々続いてきた長という職を父から受け継いだ人間。
そんな自分でさえも日々研鑽を積まなければならないのだから、沢はさらに大変だろう。
洋菓子を口一杯に頬張りながら沢をフォローするのは弥生の里の長である。
春の日差しを連想させるその笑顔はとても暖かい。
ぴしゃりと言い放ったのは霜月の里の長、霜月 雨である。
会議中に一番不服そうにしていたのは彼だ。
しゅんと俯いてしまう沢を憐れむ素振りも見せずに、ただ冷たい目線で見る雨。
彼の里は現在、意味不明な病原体に侵されており、本人も焦っているんだろうと睦月は思った。
そんな時に沢を元気付けようとしたのは、神無月の里の長である神無月 鈴鹿だ。
未だに膝から離れようとしない子猫を撫でている。
そんな時、杖を使って年配の男性が立ち上がった。
彼は卯月の里の長である。
長い経験を積んだ彼から出るその言葉に、沢は安心したような表情を浮かべる。
その時、弥生の里の長と共に洋菓子を食べていた男がパチパチと手を叩いた。
彼の名前は如月 萌葱。
如月の里の長であり、今もニコニコと笑顔を浮かべては楽しそうにしている。
…しかし、その笑顔の裏側がわからず睦月は怖いと感じる時もある、が。
その時、黙ってその話を聞いていた男が焦ったように席を立った。
大した特徴のないその男は長ではなく、代理で出席している役人だった。
睦月は思い出す。葉月の里の長は病弱であり、人に囲まれるのが苦手なそうなので会議には出席できないことを。
男は急いだように部屋から出ていった。
長の体調が崩れると言うのは里の一大事なのだろう。
役人があまり葉月の里の現状について語らないので誰も様子を知らないが。
震えながら帰りの支度を始めたのは、長月の里の長、大老 美郷と文月の里の長、海王 珊瑚だった。
彼らの国は常に暑いため、寒さは彼らの体には毒だったようだ。その薄い服や夏用の着物も彼らに牙を向いたらしい。
手鏡を見てギョッとした顔をした美しい女性の名は、水無月 胡蝶。
彼女は水無月の里の長も務めているがモデルもしており、都会である水無月の里では大人気の有名な人らしい。
急ぎの用事がある様子で、そそくさと荷物をまとめ始めた。
小さな体でぺこりと礼をするその少年の名前は繭中 皐月。
兜というのは確か、彼のそばに支えている役人の名前だったはずだ。
詳しいことは知らないが、こんなに小さいのに長をしているなんて、さぞかし毎日大変なのだろうと睦月は思う。
次々と人が減っていき、小さな畳の部屋には七人だけが残った。
雨が小さく舌打ちをする。
独り言を呟きながら部屋をそそくさと出て行く雨。
部屋にかけてあった振り子時計を見て、自分もそろそろ帰ろうかなと睦月は思う。
そろそろだ。会合が終わった頃、迎えが来るはずなのだが…。
そう思った途端、外から足音が聞こえた。
ガラガラと襖が開き、聞き慣れた声が睦月の鼓膜を揺らした。
寒さにも負けず薄着で裸足のその男の名は日ノ出 陽。
睦月が心を許している数少ない相手で、幼馴染である。
睦月は陽の方に歩み寄り、沢達に礼を一つして部屋を後にした。
雪道を歩きながら睦月に問いかける陽。
ふふっ、と少し笑って睦月は返す。
その笑顔を見つめた後、ふと険しい顔つきになり陽は聞く。
彼の言う話とは、あの里に渦巻く不穏な噂のことだ。
睦月も声のトーンを少し落としてうなずいた。
いつもの軽い雰囲気を取り戻したように少しだけ睦月は安心したような息を漏らす。
彼は変化が苦手で、こういう今の状況を脅かすような情報が出たら異様なほどの危機感を持つのだ。
やがて馬車に乗り込み、二人は師走の里を後にした。
明日からは一月。忙しくなりそうだと、睦月の里に向かいながら二人は思った。
あけおめです!続くかどうかは知らない新作です()
花札っぽいですが花札要素はこれ以降ない気がする
個人的にメロいとか推しだと感じるキャラクター性を詰め込んだ人たちしか出てきません
























編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。