熱を孕んだ七月の風が、私たち二人の間を通り抜けていった。
港町を見下ろす丘の上に建つ、名門・聖アウグスティヌス学園。その重厚なレンガ造りの校舎に、まばゆい真夏の夕陽が、濃い琥珀色の影を落とす。
私――佐倉梓は、いつもと変わらぬように、幼馴染の藍沢恭介の隣を歩いていた。
恭介ーーキョウちゃんは紺色のブレザーを片手で軽やかに肩にかけ、もう一方の手には、私の教科書が詰まった重い鞄を持っている。夏の盛りだというのに、彼の水色の髪は少しも乱れず、その中性的な美しさは、まるでこの世のものならぬ芸術品のよう。長いまつげの下に湛えられた瞳は、いつも穏やかで、私を優しく見つめてくれる。
夕陽が、彼の喉仏を隠す黒いチョーカーと、少し着崩したシャツから覗く十字架のネックレスを輝かせた。
私は彼にそう提案した。彼が持っている鞄を見上げて、少し申し訳なさを感じたのだ。
でも、キョウちゃんは港の方向を眺めたまま、微笑んだ。夕陽の逆光に照らされ、腰まで長いティールブルーの髪が揺らぐ、その横顔は、まるで映画のワンシーンのようだった。
その紳士的で、どこか大仰な物言いは、いつものキョウちゃんらしい。彼は、私を大切にしてくれる。その愛情は、深く、絶対的な信頼に基づくもの。
私たちは幼稚園から、高校2年生の今までをほとんど一緒に過ごしてきた。ママに相談できない事も、キョウちゃんにはできるし、秘密も分け合える。
友達とも家族とも、似てるようで違う。私達は不思議な関係で、ずっと支え合って、この街で一緒に育った。
私は、この彼の存在が大好きで、彼との時間は、私にとって心底安らげる場所だった。
私たちは、ごく普通の幼馴染。彼は少し私に過保護だけど、それは恋愛ではない。優しい彼との特別な友情から、来るものだ。
だって、私もキョウちゃんのことが、誰よりも大切で、大好きだから。その気持ちはよくわかっていた。
――そう、一昨日までは、ずっと。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!