第2話

夜の降る街で、君だけが太陽(1)
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2025/10/31 01:10 更新
 熱を孕んだ七月の風が、私たち二人の間を通り抜けていった。

 港町を見下ろす丘の上に建つ、名門・聖アウグスティヌス学園。その重厚なレンガ造りの校舎に、まばゆい真夏の夕陽が、濃い琥珀色の影を落とす。

 私――佐倉梓は、いつもと変わらぬように、幼馴染の藍沢恭介の隣を歩いていた。

 恭介ーーキョウちゃんは紺色のブレザーを片手で軽やかに肩にかけ、もう一方の手には、私の教科書が詰まった重い鞄を持っている。夏の盛りだというのに、彼の水色の髪は少しも乱れず、その中性的な美しさは、まるでこの世のものならぬ芸術品のよう。長いまつげの下に湛えられた瞳は、いつも穏やかで、私を優しく見つめてくれる。
 夕陽が、彼の喉仏を隠す黒いチョーカーと、少し着崩したシャツから覗く十字架クロスのネックレスを輝かせた。
_佐倉@さくら_ _梓@あずさ_
佐倉さくら あずさ
キョウちゃん、重いでしょ? それ。
やっぱり、私が持つわ。私、こう見えても力持ちだもの
 私は彼にそう提案した。彼が持っている鞄を見上げて、少し申し訳なさを感じたのだ。

 でも、キョウちゃんは港の方向を眺めたまま、微笑んだ。夕陽の逆光に照らされ、腰まで長いティールブルーの髪が揺らぐ、その横顔は、まるで映画のワンシーンのようだった。
_藍沢@あいざわ_ _恭介@きょうすけ_
藍沢あいざわ 恭介きょうすけ
気にしないで、アズサ。
羽みたいに軽いからね、この鞄は
_佐倉@さくら_ _梓@あずさ_
佐倉さくら あずさ
辞書が二冊入ってるのよ?
_藍沢@あいざわ_ _恭介@きょうすけ_
藍沢あいざわ 恭介きょうすけ
僕からしたら、軽いものさ
_佐倉@さくら_ _梓@あずさ_
佐倉さくら あずさ
もう、私だって持てるわよ……
_藍沢@あいざわ_ _恭介@きょうすけ_
藍沢あいざわ 恭介きょうすけ
ははっ、なら、今度頼もうかな?
 その紳士的で、どこか大仰な物言いは、いつものキョウちゃんらしい。彼は、私を大切にしてくれる。その愛情は、深く、絶対的な信頼に基づくもの。
 私たちは幼稚園から、高校2年生の今までをほとんど一緒に過ごしてきた。ママに相談できない事も、キョウちゃんにはできるし、秘密も分け合える。

 友達とも家族とも、似てるようで違う。私達は不思議な関係で、ずっと支え合って、この街で一緒に育った。

 私は、この彼の存在が大好きで、彼との時間は、私にとって心底安らげる場所だった。

 私たちは、ごく普通の幼馴染。彼は少し私に過保護だけど、それは恋愛ではない。優しい彼との特別な友情から、来るものだ。

 だって、私もキョウちゃんのことが、誰よりも大切で、大好きだから。その気持ちはよくわかっていた。

 ――そう、一昨日までは、ずっと。

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