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夕食時。少女達はキッチンのテーブルに集まった。「歓迎会」なだけはある。テーブルが見えなくなるくらいまで置かれた沢山の料理。全て少女達の自作。中にはアネットの器具の威力が予想以上に強く、黒く焦がグラタンもある。が、それを除いてはすべてとても美味しそうだ。料理の匂いが空腹感を刺激する。
食卓に少女たちの賑やかな話し声が響く。仲を深めるのに時間は有さなかったようだ。最初は内気な雰囲気だった「可惜夜」のメンバー達も、発言を多くするようになった。
夕食が終わり、食器を各々片付けた後も大半の少女たちは自室へ行かず、リビングに残り続けた。(モニカやアネットはどこかへ消えた)
他チームとの交流の機会など滅多にない。それに、お互い落ちこぼれの生徒同士意気投合できたのだろう。まるで灯のメンバーが初めて会った日と同じように、灯のメンバーは各々のエピソードを語り合った。
「恐怖心」「臆病」に関して最も共感できるのはサラだ。サラ自身も自分のことを臆病者だと評価している。だから逃げてばかりのレナにも優しく共感してあげることができた。
仲間の言葉に感動したのだろう。レナは抱きつくようにルナとイオに寄りかかった。イオは明らかに迷惑そうな顔でレナを無理やり引き剥がした後、咳払いをして自身のエピソードを語りだした。
少女たちは遠い目で彼女を見た。イオは慌てて弁解を始める。
「凛として頼りになりそう」というイオに対する灯たちのイメージは、この一言により一気に「ヤバい奴」へと変わった。これ以上のイメージダウンを恐れてか、慌ててイオはルナに話を振る。
彼女はうーんと唸りながらしばらく考えた後に、小指を立てながら言った。
全員一斉にバッとエルナの方を見た。エルナ本人もとても驚いた様子で目をぱちくりさせている。「不幸体質」の彼女にとって、真逆の位置に立つ「幸運体質」の存在は驚きのものだろう。
自身の体質が褒められ、ルナは満足そうににこにこと笑みを浮かべた。
一気にいろんな方向から褒められ、エルナは顔を少し赤らめながらそう呟いた。
アイは無表情でそう言った。相変わらず何を考えているのか、よくわからない少女だ。怒っているようにも呆れているようにも、ぼんやりしているようにも見える。彼女はこの歓迎会の間一言も喋らず、ただその場にいただけだった。
アイはそう告げ、また黙った。今までの和やかな空気が一気に崩れる。みんなどう接したらいいのか分からないようだ。しばし沈黙。慌ててリリィがフォローに入る。
彼女はそう冷たく言い、立ち上がった。鋭い目つきで少女達を見ている。こちらを拒絶し、突き放すような態度だ。
これ以上もう言うことは無いというように、彼女はくるりと背を向け去っていった。初日にこれはキツい。重い空気が漂い続けている。
エルナ自身もそう感じていた。あの子は灯に入ってすぐのまだメンバー達との壁があった、孤立していた頃のエルナにそっくりだった。他人との上手な距離感が掴めず、スパイに相応しい人格であろうと努力して、気づけば周りに人がいなくなってた、あの時の。
重たい空気から脱せぬまま、「歓迎会」はこれでお開きとなった。みな浮かない顔のまま、各自部屋へ戻った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!