第3話

Episode.2
24
2024/06/18 11:33
◆◇◆◇◆◇
夕食時。少女達はキッチンのテーブルに集まった。「歓迎会」なだけはある。テーブルが見えなくなるくらいまで置かれた沢山の料理。全て少女達の自作。中にはアネットの器具の威力が予想以上に強く、黒く焦がグラタンもある。が、それを除いてはすべてとても美味しそうだ。料理の匂いが空腹感を刺激する。
レナ
おいしい……おいしいです!
リリィ
いっぱい食べちゃってください!。
主役は「可惜夜」のみなさんなので
アネット
俺様のグラタンもどうぞ!
レナ
あ、はは……遠慮します
ルナ
おいし〜。ずっと食べてられるよ!
グレーテ
ふふっ、作った甲斐があります
ティア
まだまだあるわよ
イオ
へぇ、悪くないじゃん
ジビア
だろ?、自信作だよ
モニカ
結構いけるでしょ
アイ
………………
サラ
美味しいっすか?
アイ
コクッ
エルナ
なら、よかったの
食卓に少女たちの賑やかな話し声が響く。仲を深めるのに時間は有さなかったようだ。最初は内気な雰囲気だった「可惜夜」のメンバー達も、発言を多くするようになった。
レナ
灯のみなさん、とても優しくて安心しました
ルナ
うちらは落ちこぼれだしね。
最初は受け入れてくれないかと……
リリィ
そんなわけないですよ!。
賑やかなのはいいことですから
サラ
それに、自分たちも落ちこぼれっすから
イオ
まぁ、僕たちからしたら「灯」は
すでにエリートスパイだけどね
グレーテ
それは過大評価しすぎです
ルナ
いやでもほんとに。憧れの的なんだよ?
リリィ
ふふっ。うれしいです
夕食が終わり、食器を各々片付けた後も大半の少女たちは自室へ行かず、リビングに残り続けた。(モニカやアネットはどこかへ消えた)
他チームとの交流の機会など滅多にない。それに、お互い落ちこぼれの生徒同士意気投合できたのだろう。まるで灯のメンバーが初めて会った日と同じように、灯のメンバーは各々のエピソードを語り合った。
リリィ
よければ、みなさんの養成学校時代の
エピソードとかも聞きたいです
レナ
養成学校……
レナ
私、逃げてばっかで攻撃とか一切無理で。
正真正銘の、落ちこぼれなんです
レナ
唯一の特技も「回避」とかいう、
任務になんの役にもたたないやつで
レナ
防御しかしないから、当然成績は低くて。
退学寸前で拾われて……
サラ
……怖い気持ち、自分よく分かるっすよ
レナ
さ、サラさんもですか?
サラ
自分は今でも臆病で。
…やっぱり恐怖心は消えてくれないっすよね
レナ
はい……
「恐怖心」「臆病」に関して最も共感できるのはサラだ。サラ自身も自分のことを臆病者だと評価している。だから逃げてばかりのレナにも優しく共感してあげることができた。
サラ
でも、周りには自分を支えてくれる仲間がいます。弱くて臆病でどうしようもない自分でも、見捨てない仲間が
サラ
レナさんの仲間も、きっとそうっすよ
ルナ
もっちろんだよ〜!。
レナは大事なお仲間ちゃん♪
イオ
当たり前。周り見ろよ。
お前の味方ばっかだから
レナ
み、みんなぁ!………
イオ
うわちょっ、寄るな暑い
仲間の言葉に感動したのだろう。レナは抱きつくようにルナとイオに寄りかかった。イオは明らかに迷惑そうな顔でレナを無理やり引き剥がした後、咳払いをして自身のエピソードを語りだした。
イオ
僕は「爆弾」を扱うのが特技なんだけど
イオ
夜にこっそり実験してて。
寮室爆発させて退学ギリギリ
リリィ
うわぁ………
少女たちは遠い目で彼女を見た。イオは慌てて弁解を始める。
イオ
い、いやでも!。
その爆弾の開発のお陰で、任務先で相手に
致命傷与えれたんだよ!?。
これは大きな評価を得るべきで……
エルナ
こいつ、アネットと同じ匂いがするの…
ティア
そうね。またリリィの部屋が爆発するわ
リリィ
わたしが可哀想すぎる!
「凛として頼りになりそう」というイオに対する灯たちのイメージは、この一言により一気に「ヤバい奴」へと変わった。これ以上のイメージダウンを恐れてか、慌ててイオはルナに話を振る。
イオ
じゃ、じゃあ次はルナ!
ルナ
う、うち!?
ルナ
………話すの難しいな。
なんて言えばいいんだろ
彼女はうーんと唸りながらしばらく考えた後に、小指を立てながら言った。
ルナ
これから言う事、嘘じゃないって
信じてくれる?
グレーテ
はい……
ルナ
んじゃ、約束!
ルナ
うちね、幸運体質なの
リリィ
幸運体質!?
全員一斉にバッとエルナの方を見た。エルナ本人もとても驚いた様子で目をぱちくりさせている。「不幸体質」の彼女にとって、真逆の位置に立つ「幸運体質」の存在は驚きのものだろう。
エルナ
幸運体質って、なんなの?
ルナ
んー、なんというか
ルナ
幸運な予感がするんだよね。
で、そこに行ってみるとラッキーなことが
起きるの
ジビア
例えば?
ルナ
アイスの棒が6連続当たったり、
福引き1等当てたり
ルナ
任務で言うと……、
道に落ちてる小銭拾おうとしゃがんだら、
敵の不意打ち避けれちゃったり!
サラ
すごいっすね
ルナ
でしょでしょ!
自身の体質が褒められ、ルナは満足そうににこにこと笑みを浮かべた。
エルナ
……エルナは逆。不幸体質なの
ルナ
不幸体質!?
エルナ
エルナは不幸の予感がするの。
そこに行くと不幸に巻き込まれるの
イオ
ルナと逆な感じか。
スパイ活動にめっちゃ便利だね
リリィ
そうですよ、エルナちゃんは事故災害のスペシャリストなんですから!。
うちの自慢の子ですよ〜
ルナ
そうだよそうだよ凄すぎだよ〜。
かわいいしスペシャリストだし、
かわいいしスペシャリストだしで、
尊敬しちゃうよ〜
エルナ
の……なんだか照れるの……
一気にいろんな方向から褒められ、エルナは顔を少し赤らめながらそう呟いた。
ルナ
ふふっ、照れた顔もかーいいね
ルナ
じゃあ次はアイね!
アイ
……ワタシはいい
アイは無表情でそう言った。相変わらず何を考えているのか、よくわからない少女だ。怒っているようにも呆れているようにも、ぼんやりしているようにも見える。彼女はこの歓迎会の間一言も喋らず、ただその場にいただけだった。
ルナ
えー?、なんでなんで?
アイ
話す意味がない。話してて楽しくもない
アイ
理由はそれだけ
アイはそう告げ、また黙った。今までの和やかな空気が一気に崩れる。みんなどう接したらいいのか分からないようだ。しばし沈黙。慌ててリリィがフォローに入る。
リリィ
……ま、まぁ、無理にとは言いませんが
リリィ
けど、あなたの話も聞きたいです。
こうして会ったのも何かの縁ですし、
よければ一緒にお話しませんか?
アイ
話すことなんてない
アイ
サヨナラ。ワタシ部屋に戻るから
サラ
あっ……
彼女はそう冷たく言い、立ち上がった。鋭い目つきで少女達を見ている。こちらを拒絶し、突き放すような態度だ。
レナ
アイ……。何もそんな突き放さなくても…
アイ
………アナタ、リーダーの自覚はある?
レナ
え?
アイ
アナタ達にはスパイに必要な冷静、冷酷さ、
緊張感がない
エルナ
…………………
アイ
アナタ達とはやっていけない
アイ
サヨナラ
これ以上もう言うことは無いというように、彼女はくるりと背を向け去っていった。初日にこれはキツい。重い空気が漂い続けている。
サラ
アイさん、なんだか
最初のエルナ先輩みたいだったっすね
エルナ
の………
エルナ自身もそう感じていた。あの子は灯に入ってすぐのまだメンバー達との壁があった、孤立していた頃のエルナにそっくりだった。他人との上手な距離感が掴めず、スパイに相応しい人格であろうと努力して、気づけば周りに人がいなくなってた、あの時の。
ルナ
アイもみんなも居心地の良い関係が、
築けるといいんだけどね……
ティア
……そうね
重たい空気から脱せぬまま、「歓迎会」はこれでお開きとなった。みな浮かない顔のまま、各自部屋へ戻った。

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