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第2話

雨模様【鉢尾】
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2025/12/14 04:45 更新


⚠︎死ネタ



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お前が死んだ日は雨が降っていた。

まるでお前のことを迎えに来たかのように透き通る美しい雨だった。


俺たちは五百年前、「忍者のたまご」として確かにあの戦乱の世を生きていた。
偶然なのか、必然なのか。
かつての級友とは、この平和な時代でも会うことができた。

ただ、一人だけ会えていない奴が居る。
俺が、最初で最後に愛した男だ。

明け方、外から微かに聞こえてくる雨音で目を覚ました。
こんな日はお前を探しに行きたくなってしまう。
俺たちの最後には雨が降っていたからだ。
雨の日はお前に会える気がして、期待してしまう。

今日はちょうど学校もバイトも無いしどこかに行ってみようか。

俺は必要最低限の荷物とビニール傘を持ち、とりあえず最寄りの駅まで行くことにした。
さあ、どこへ行こうか。と悩んだ末、今日は昔、二人で1度だけ行った海まで行くことにした。


あの日は少し風が強くて、知らない間にふらっとどこかへ行ってしまいそうなお前を見失わないように手を握っていた。
お前の瞳に映る夕日はとても綺麗で、つい、見とれてしまった。


そんなこともあったな、なんて昔のことを思い出していたら海が見えてきた。
雨が降っているからか肌寒く少し薄暗くて寂しい。





しばらく海辺を歩いたり、近くにあったカフェに入ったりしたけど、人生うまくいかないことの方が多い。
そう簡単に見つかる訳もなく、雨で冷えきったからだで歩き続けても体調を崩してしまうと思い今日は大人しく家まで帰った。
家に着いた時には既に激しく降っていた雨もいつの間にか小降りになっていた。


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翌日、俺は体調を崩すこともなくいつも通り大学に行き、バイトに励んでいた。
昨日と違って今日は太陽が出ていて少し暑い。
バイト中にもお前がふらっと現れないか、とほんの少し期待してしまう。期待しすぎても
今日はバイトをいつもより早く上がらせてもらった。
まだ少し空が明るい。

さあ、帰ろう。

今日の夜ご飯は何を食べようか、と考えながら歩いていたら突然雨が降ってきた。
通り雨だろうか、このまま駅まで走ってもずぶ濡れになってしまいそうだ。
そうだ、ちょうど近くにコンビニがあったはず。そこで傘を買って帰ろう。

次いつ使うかも分からないビニール傘。
使う時はいつも少し大きい気がして隣が寂しい。

空は明るいのに雨。
こういう天気のことを「狐の嫁入り」と言うんだったか。

俺の愛した狐はどこに行ったんだろう。
嫁入りなんてしなくていいから、ただ近くにいて欲しいだけなのに、こんなに苦しいなんて。
会いたくて、見つけたくて、また隣で笑っていて欲しいだけなのに。
自分の無力さを感じては泣きたくなる。

こぼれそうな涙に気付きたくなくて少し上を向いて歩いた。

俺の気持ちとは裏腹に雨は弱まってもうほとんど止んでいた。
傘を差していても足は濡れる。今日はお気に入りのスニーカーだった。
せっかく買った傘もほんの少ししか使わなかった。
今日はなんだかついていないような気がする。




「あの、これ落としませんでしたか」

と、どこか懐かしく、聞き覚えのある、そんな声で呼び止められた。

何か落としてしまっただろうか。
俺は好青年を演じるために下がっていた口角を無理矢理上げて振り返った。

差し出されたのは狸と狐のぬいぐるみキーホルダー

「あー、落としてないです。すみません」

そう言いながら前に立つ人の顔を見ると、頑張って作った笑顔が崩れ、堪えたはずの涙が溢れてきた。
あの頃と変わらない、数え切れないほど見た、お前がずっと借りていた同室の顔。俺が愛した。愛していた、

「っ三郎、、」

言ってしまった、抑えられなかった、お前は覚えていないかもしれないのに。

「、、どうした、勘右衛門。」

変わらない声、変わらない表情

「さぶろ、、っ」

周りに沢山の人がいることなんて忘れて、俺はお前を抱きしめた。
暖かい、生きてる、夢じゃない。

「おそい、」

「すまない」

「ずっと探してたのに」

「私もずっと探していた」

お前も探してくれてたことが嬉しくてまた涙が出てくる。

そして、お前の肩に顔をうずめながら言った。



「愛してる」



五百年降り続けていた雨は止み、空は俺たちを祝福するかのように晴れていた。
二人ならどんな空の下でも歩んでいけそうだ。

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