きょもSide
彼女の気迫に負け、ドアを開けた。
「早く開けなさいよね」
オレを押し退け、松村さんの妻である女性が無遠慮に玄関へ入ってくる。
大『ちょっと勝手に……』
スリッパに履き替え、ずかずかとリビングに足を踏み入れる。
どかっとソファに座り、少し体を斜めにして足を組む。
スカートは短めで、ややタイトのデザインでスカートの布地が太ももに張り付いているので、そのむっちりとした色っぽさが手に取るように分かった。
「お茶」
大『は、はい』
「ったく、気が利かないわね」
ソファに背をもたれ掛けさせ腕を組み、彼女が悪態をつく。
大『あ、あのコーヒーでいいですか?』
「ええ」
初対面の相手に対して、なんて横暴な人なんだと内心憤慨しつつ、オレは足取りも荒くキッチンへ向かった。
ケトルでお湯を沸かし、棚からカップを用意する。
インスタントのコーヒーを淹れ、砂糖とミルクをトレイに乗せ、リビングに戻った。
テーブルにコーヒーと砂糖、ミルクを並べていく。
大『どうぞ』
「ありがと」
彼女はミルクだけコーヒーに入れ、数回息を吹きかけ冷ましてから、一口コーヒーを口に含んだ。
コーヒーを呑みながら、立ち尽くしているオレに「座らないの?」と促してくる。
やや臆しながらオレは向かいのソファに腰を下ろした。
美味しそうにコーヒーを呑む彼女の顔を、チラチラと盗み見る。
整った顔立ちのクールな雰囲気で、自己中で我儘気質がありそうなお嬢様って感じの美しい女性だ。
こちらの視線に気づいたのか、切るような鋭い視線を向けられ、オレは瞬間的に目を逸らした。
まるで蛇に睨まれたカエルのようだ。
「ねぇ、あなた名前は?」
大『オレ?』
「あなた以外誰がいるっていうのよ。おかしな人ね」
大『オレは……京本…大我……です……。貴女は?』
「私は○○よ。ところで北斗は何時ごろ帰って来るの?」
大『……それは分からないです』
「……そう。じゃあ、北斗が帰って来るまで待たせてもらうから」
大『えっ!?』
「なに?文句でもあるの?」
大『いえ……』
彼女の不遜な瞳を見るたび、オレの胸の奥で、静かな拒絶の壁が築かれていく。
この高圧な態度、苦手なタイプだ。
本当にこの人は、松村さんの妻で樹くんの母親なのだろうかと疑問符が湧いてくる、そんななか背後から消え入りそうな声が耳に入った。
樹「………ママ?」
はっと背後を振り返れば、少しだけ開いたドアから、樹くんがひょっこりと顔を覗かせていた。
彼女は樹くんに向けて笑みを浮かべていたが、樹くんの目に怯えたような色があることを、オレは見逃さなかった。
「樹〜、久しぶりね。ママよ」
樹「……ママ」
久しぶりに母親に会うんだったら、小さい子供なら嬉しそうに駆け寄るものだが、樹くんにはその形跡さえない。
樹くんは母親である、彼女を怖がっている。
彼女は樹くんに何をしたのだろうか……
オレの脳裏に嫌な"二文字"が思い浮かび離れない。
「久しぶりに会うんだもん、ママに顔を見せて」
樹「いやっ、ママいやっ!」
樹くんの拒絶に彼女は口元を歪め、不機嫌を隠そうともしない。
「ったく、相変わらず可愛くないわね。でも、ママのこと嫌だとしても、これからは樹はママと一緒に暮らすのよ」
ソファの背に体重を預けていた彼女が、ゆっくりと腰を浮かせ、冷たい視線を向けながら樹くんへ歩み寄せる。
「樹、ママと一緒に行こうね」
まるで獲物を捕らえるかのように樹くんの小さな手を鷲掴みにし、玄関へ向かって歩き出した。
樹「いたいっ!ママ、いやぁ!いたいっ、パパ――!きょもちゃーん!!」
涙と鼻水で顔を濡らしながら、理性を失ったように樹くんが泣き叫ぶ。
大(樹くんを助けないと……!)
今、樹くんを助けられるのはオレだけだ。
オレは弾かれたように飛び出し、彼女の前に立ちはだかった。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。