第28話

本当の大丈夫
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2026/02/18 00:19 更新



俺は、祈莉が学校でいじめに遭っていたことを知った瞬間、



心が引き裂かれるような痛みを感じた。



目の前で泣き崩れる祈莉を見たとき、彼女がどれほど自分を抑え込んでいたか



どれほど苦しんでいたかを理解できなかった自分が許せなかった。



その夜、俺は自分一人で部屋に閉じこもり、何度もその日を振り返っていた。



祈莉があの日、「大丈夫だよ」と言ったこと、



そしてそれを信じてしまった自分がどれほど愚かだったのかを思い返すたびに、



胸が苦しくなった。



「あの時、何か違和感があったんだよ…」



独り言を呟いた。



その瞬間、あの一日を思い出す。



祈莉が一緒に出かけた日のこと。その時、確かに何かがおかしかった。



祈莉の笑顔がぎこちなく、目を合わせることを避けていた。



それでも、俺はその「大丈夫」という言葉を信じてしまった。



祈莉がきっと何も言わないから、自分が気づくべきだったのに。



「俺は、もっとちゃんと気づいてやるべきだった…」



床に膝をついて、手を顔に当てた。深くため息をつきながら、心の中で自分を責め続けた。



祈莉が何も言わない理由を知っていた。



彼女が兄のぷーのすけに対して言えなかったこと、



そして自分に対してもきっと同じように「大丈夫」と言っていたことが、



おれには分かっていた。



しかし、彼女が抱えている痛みや悲しみがどれほど深かったのか



あっきぃはその時、わかりきれなかった。



「兄のぷりっつに言う勇気がない祈莉に、きっと俺が気づくべきだったんだよ。」



自分の胸を叩くように呟いた。



彼は、祈莉にとって自分が頼りにできる存在であるべきだったのに



気づけなかったことを痛感していた。



彼女がどんなに心を閉ざしていたのか、なぜ言わなかったのか



それに気づけていなかった自分を責めた。



「祈莉、俺、あの日、もっと君に寄り添ってあげるべきだった。」



壁に頭を預け、目を閉じて深く息をついた。



その後、少し冷静になってから、再び言葉を続けた。



「でも、もう遅いんだよ、。…これからでも、絶対に守る。」



そう心の中で誓った。その誓いが、祈莉にとって少しでも救いになるのか、それは分からなかった。



でも、今はただ祈莉が少しでも自分を頼れる存在であることを、改めて誓いたいと思った。




その翌日、あっきぃは何度も祈莉に話しかけようとした。



しかし、彼女はどこか遠くを見つめていることが多く、あまり目を合わせようとしなかった。



何度も言葉をかけようとしては、結局言えずにただ黙ってしまうことの繰り返し。



昼休みに、あっきぃはとうとう決心して祈莉の部屋に入った。



「祈莉…」あっきぃは優しく声をかけた。



「ちょっとだけ、話していい?」



祈莉は少し驚いたように顔をあげ、俺の顔を見た。



しかし、その目はどこかしら遠くを見ているようで、あっきぃは少しだけ胸が痛くなった。



「ごめん、今はちょっと…」



祈莉は一歩後ろに下がり、そう言おうとした。



「待って、祈莉。」



その手を優しく掴んだ。



「俺、あの日、祈莉がどれだけ苦しんでいたか、何も気づいてあげられなかった。」



祈莉は目を伏せ、黙っていた。あっきぃはその沈黙を痛いほど感じていた。



「でも、これからは絶対にそばにいる。何を感じているのか、絶対に見逃さない。
 だから、もし辛いことがあったら、言ってほしい。本当に辛い時は、俺が守るから。」



その言葉を聞いた瞬間、祈莉は少しだけ顔を上げ、目に涙を浮かべた。



「私、怖くて…言えなかったんです。大丈夫って、いつも言ってたけど…」



祈莉は声を震わせた。



「でも、でも、今、ほんとうに…」




「大丈夫じゃないんだよね。」



あっきぃは優しく言った。



「祈莉、今まで一人で抱えてきたこと、全部話してくれる?
 俺が聞くから。」



その瞬間、祈莉は涙をこらえきれずにこぼした。



あっきぃはすぐに彼女を優しく抱きしめ、背中をさすった。



「ごめん、祈莉。」



あっきぃは泣きながら言った。



「もっと早く気づくべきだった。」




その日を境に、祈莉は少しずつ心の中の重荷をあっきぃに話し始めた。



最初はうつむきがちで、言葉も少なかったが、
少しずつ自分の中にある苦しみを打ち明けるようになった。


あっきぃは、どんなに小さなことであっても
祈莉が言葉にしたことを真剣に受け止め、
彼女が心の中で抱え続けてきた重さを少しずつでも分かち合おうとした。




そして、彼の言葉が少しずつ祈莉の心に届き、癒しの兆しが見え始めた。



その癒しは、まだ完全ではなかったけれど、確実に前に進んでいる感覚があった。



「もう、大丈夫。」



その日、祈莉は言った。



その言葉は、今までとは違って、ほんの少しだけ安心した表情で。



あっきぃは静かに微笑みながら答えた。



「うん。絶対に、大丈夫だよ。」




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