第91話

におい___💎🖤
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2023/07/27 14:00





におい


それは記憶の中で最も鮮明に


未練強く残るもの。


たとえ、聴覚、視覚、触覚、味覚、


嗅覚以外の五感からは


全て忘れていたとしても


その香りが鼻の奥を刺しただけで


一瞬で思い出すのだ


あの瞬間の


あなたの声も、笑った顔も


肌の柔らかさも、一緒に食べたものの味も


あなたと別れて数年


街中ですれ違った瞬間


その、たった1秒にも満たない


一瞬で


全てを思い出したようだった


振り返って、慌てて探した


同じ匂いがした


懐かしい空間があった


忘れたくない。


どんどんと薄れていくそのにおいを


無理やり止まらせて


フラッシュバックした記憶を


なんとか、脳内で安定させたかった


忘れていたあなたとの記憶を


1秒も無駄にすることなく


思い出したかったから。


それなのに、においも、きおくも


だんだんと薄れていって


もうそこには俺しかいなかった。


ただの偶然だ。


しかも、今更あったところで


何もできないし


あっちにはきっと新しい誰かがいる


体の向きを戻そうとした瞬間に


声がした



「北斗、?」



脳みそが溶けていくような


ギチギチと痛む頭を


なんとか静まらせて


その声がした方へ向いた


口が開いただけで


声は出なかった。


俺の顔を見て確信したあなたは


俯きがちに目線を逸らした



「ごめん、今更」



ここでセリフを間違えたら


もう一生の別れにならなくもないと思い


言葉は発せられずにいた


その代わり顔を横に振った



「北斗のにおいがして、振り向いたらいたから、もう我慢できなくて、」



悔しそうに


でも、悲しそうに


俺たち、なんで別れたんだっけ?


しょうもない理由だったような気がするね


別れなくてよかったかもね


だって、今、2人とも泣いてるよ


同じ理由で振り返って


同じ理由で泣いてるよ



「バカみたいだよね、忘れようとしてたのに、におい一つで全部思い出しちゃってさ」



俺もだよ。


そう言いたかった


でも、その前に目の前の手を取って


そのまま手を引いて歩いた


物陰に体を放り込み


自分を落ち着かせた


好かれようとか、


ダサい男だと思われたくないとか、


そんなこと考えずに



北斗「会いたかった」



素直な気持ちがそれだった


五感全てがあなたを認識してる


女々しくても、情けなくてもいい


離れたくない


ずっと一緒にいたい



北斗「香水、変えてないんだね」

「私未練たらたらだったし」

北斗「俺もだよ」



別れた理由なんて


覚えてないくらいだから


きっとほんとにしょうもないことだった気がする


でも、2度目はないと


あなたの首元に顔を埋めながら思うのだ。

















お気に入り400ありがとうございます!!!!!
いつでも募集中ですが一応リクエストあればどうぞ!
他の小説のafterstoryに追われてるからすごく後になると思うけどちゃんと書きます!いつか!

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