彼女は口数の少ない子だった


ニコニコと笑うわけでもなく


感情表現が少なく


不思議な子だった


どこを好きになって


そんな彼女も俺のどこを好きなのかは


わからない


でも、不意に見せる笑った顔に


瞬殺された記憶がうっすらとあるから


多分俺たちの始まりはあの瞬間だろう


そして、終わりは今。


メッセージのやり取りでさえ


そんな頻繁に行うことはない


予定を決めるくらいで


くだらない会話もしない


俺はそれでもよかった。


そんな彼女の方からメールが来たのが昨日


「別れよう」たったの4文字


それに対しての返事をするわけでもなく


今日、会う約束を立てた


喫茶店で向かい合うようにして座っても


彼女から口を開くことはない


飲み物が置かれて


紙ペラの伝票も置かれる



北斗「俺、なんかした？」



「別れよう」と言われる原因となることを


した覚えはないし


具体的な答えが返ってくるとも


思ってなかったが


予想通り、彼女は首を横に振るだけ



北斗「急すぎて、訳わかんないんだけど」



目線を下げたまま


飲み物には口をつけない


沈黙。



北斗「あなた」



しっかりと名前を呼べば


色白の、綺麗な顔が


こちらを向く


綺麗な目が細くなったところを見たのは


何回だろう。


きっと数えられるぐらいだろうけど


そのすべての瞬間を覚えている自信がある



北斗「別れたい理由言ってくれないと、納得できないよ」



最大限優しい言い方をした


怒ってないし


それなりの理由があるなら受け入れるから



北斗「悩みがあるなら聞く。あなたのことだから、また自分の殻に籠るんだろうけど、こっちの気持ちもわかってよ」



相談があるわけでも


甘えてくるわけでもなく


完全に自分の世界に閉じこもって


シャットアウトする


それがあなただ


俺が1番知ってる


だけど、取り残された俺たちのことも考えて欲しい



北斗「俺、恋人だよ？支えになりたいって思うでしょ、普通」



あなたが何か隠していることもわかる


いつものように無口なだけじゃない


遠ざけようとしているのがわかる



「松村くん」



呼び方は出会った時からずっとこれだ



北斗「うん、なに」



目を合わせたまま


丁寧な相槌をした



「私、他人の人生に寄り添えるほどの人間じゃないから」



見た目通り、考え方も基本ネガティブ



北斗「それで俺が納得すると思うの？」



譲らない態度でそういえば


彼女の口角が上がって


目が細くなる。


確かにその顔は笑っているのに


あの瞬間に感じた衝撃はなかった



「松村くん、私、他人のことを本気で好きになったことなんてないの」



それは、俺も含まれてるんだろう


人に興味がなくて


この世界に馴染む程度の清潔感と


性格は用意した。みたいな人だった



「ごめんね」

北斗「俺のことも？」

「うん」



千円札を一枚だけで机に置いて


そのまま店を出て行った


悲しかった。でも


それよりも


喪失感がすごくて


俺まで、本当に好きだったのかわからなくなった


そんなことを考えているうちに


周りのお客も気付けば変わっていた


きっとこの先


良い意味でも悪い意味でも


彼女を忘れることはないだろう


もしかすれば


それが彼女の目的なのかもとすら思うのだ