第89話

彼氏くん___💎💙
1,208
2023/07/14 08:08





廊下を歩いていれば


どうやら、何か騒ぎが起きているらしく


野次馬になりに行くであろう生徒が


ざわざわと話しながら私を追い越していく


しかも、一度振り返って私の顔を見ていく


なに?と聞きたいが


聞けるような人もいないわけで


廊下の窓から見えたのは


中央廊下の踊り場の人溜まりだった


人溜まりの種が見えないほど


人が集まっている


なんとなく覗きに行ったつもりだったのに


そこにいたのは樹だった


女の子に攻め寄って


怖い顔をしていて、女の子は怯えてる



「なにしてんの」



ざわついていた人混みは


一瞬で静まり返り


樹を含めたその場にいたすべての人が


私を見た


でも、私は樹から視線を離さなかった


階段を上がれば


磁石の反発ように人が私を避けていく



「なにしてんのって」



女の子たちの顔は知らないが


樹が悪いことをしているのはわかる



「大丈夫?」



シワのできた制服を治そうとしてあげたのに


その手を振り払われ


すごい怖い顔で睨みつけてくる女の子



_「触らないで!何様のつもり!?なんなの?男に興味ないみたいなフリして、樹のことは独り占めって意味わかんない!」



それから、目の前の女の子は


私の肩を強く押した


怒鳴られることから、手を出されることまで


全てが予想外で


されるがままにバランスを崩した


それなのに、体を抱き寄せられる


樹はまだ怒ってて


女の子は泣きそうだった


そこでやっと頭が追いついた。


それと同時に学年主任とその他の先生の声がする


生徒がワナワナと道を開けていくから


それと反対へ樹の手を引っ張った


樹は女の子を睨みつけたまま



「樹ってば、!」



無理やり手を引いて


使われていない部屋にそのまま放り込んだ



「あの子がなにしたの」

樹「責任取れって言ったのそっちじゃん」

「私に何かしようとしてたの?」

樹「嫉妬だけでしょうもない噂ばら撒いて、」

「陰口なんてほっとけばいいでしょ、私が責任取ってって言ったのはいじめられたり、手を出されたらってことでっ、」

樹「じゃあお前はありもしない噂言いふらされてても平気なの、?」

「そんなの言わせとけばいんだよ」

樹「俺は無理」



やけにムキになってる樹が不思議で


でも、噂なんてどれだけでも出るし


そりゃ、樹と恋人なんて設定にしたら


色々言われることくらい


易々と想定していた


それなのに、なんで樹はこんなに必死なのか


それだけがわからなかった



「なんで?私が悪口言われてあなたに害があるの?あなたの恋人設定だから印象が悪くなるとか?」



それから、なぜが大きなため息をつかれた



樹「なんでそうなんの、?」

「なんでっ、て、」

樹「普通に腹立つだろっ、お前のことそんなふうに言われたら」

「ただの設定でしょ?」



私の恋人という役に入り込みすぎたってこと?


それともすごい大袈裟にふざけてるとか?


訳がわからないのに


樹は必死な上、目をうるうるとさせるから


もっと意味がわからなかった



樹「俺は、もう、本当の彼氏にはなれねぇのっ、??」



役に入り込みずきたわけでもない


大袈裟にふざけてるわけでもない


数ヶ月、設定だとしても


彼の隣にいてわかった


多分、これは本気で言ってる



「私といても楽しくないでしょ、」

樹「それは俺が決めることだろ」

「後悔しない、?」

樹「しねぇよ」

「がっかりするかもよ?」

樹「しないって、」

「飽きるかも知れないし、それから、」

樹「あぁ!!もう!!細けぇな!」



それから


それから。


近づいた体に、顔まで近づいて


そのまま唇が重なった



樹「今日から、普通の彼氏に昇格で」

「わかった、認めてあげる」



口角を下げて


照れたように笑う


少し子供っぽいこの顔が


きっと、出会って初めて見た時から


ずっと、ずっと好きだと思った













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