※rksr 付き合ってる二人
※リアルベースに都合よく配信もしてるし何か近くに住んでる現パロみたいな世界観
※名前は活動名そのままです
※お二人が配信していたゲーム『違う冬のぼくら』について触れています
そこそこの繁忙期、それでも定時にちょっと足が出るくらいの時間で無事退勤の運びとなった(というか強制的に終わらせた)自分が帰路について最初に見たのは、扉の前に座り込む小さな影だった。
こちらの声掛けに気が付くと、レイマリさんは立ち上がる。その手にはビニール袋がひとつ。決して短くはない時間をここで過ごしていたのだろう。マフラーに埋もれた顔の鼻先はほんのりと赤らんでいる。
誤魔化すように笑う彼を横目に、玄関の鍵を開ける。残念ながら安アパートのこの家にはリモート操作でつけられる暖房はないので、部屋に入っても外気と変わらない寒さがお出迎えしてくれるだけだ。適当に靴を脱ぎ、机にほおっておかれたリモコンを操作する。ピ、と軽い機械音の後あたたかな風が吹いてきた。そんな俺を尻目に、レイマリさんは慣れた様子でするりとキッチンに向かう。そうして冷蔵庫を開け、振り返った。
呆れたような視線から一変、嬉しそうに笑う。そのコロコロ変わる表情に、きゅんと来てしまった。小ダメージを受けている俺をよそにレイマリさんはスマホで何にしようかと調べている。お好きにどうぞ、と思うと脳内のiemonさんが『ちょっとレイマリさんに甘すぎません?』と言ってきた。うるさいな。
目の前のテレビはうっかり解約し忘れたサブスクから、適当に選んだドラマが流れている。そこから聞こえるチープなBGMと、役者のセリフだけが部屋を満たしていた。部屋の外は静まり返っていて、まるで自分たち以外の生き物が動いていないようだった。それはしんしんと降り積もる雪が、薄っすらと地面を覆いながら全ての音を吸収していまっているからかもしれない。こんな時でも届けてくれるUber配達員の皆様に感謝。
そんな寒さで凍えてしまいそうな世界と対照的に、夕飯を食べ終えた俺たちはぬくぬくと文明の利器による暖かさを享受している。……今の家に引っ越しする俺に、絶対にこれが必要だと熱弁していたのは雪国育ちの彼だったか。半信半疑だったけれど、買って正解だったらしい。マンションに一室に合わせた大きさのこたつは、残念ながら実家にあるものより小さめのサイズだけれど、かえっていいこともある。
隣に座るレイマリさんが、目の前にあるマグカップに手を伸ばす。その動きでトン、肩がぶつかった。一辺の短いこたつの同じ場所に並んで座っていると、自然と距離は近いものになる。だから、このこたつにしてよかったなと思うのだ。
マグカップの中身を注ぎ、座ってから、ずっと無言だったレイマリさんはぽつりとそんなことを言う。突然の問いかけに、なんと返事してよいものか頭を悩ませた。残念ながら自分の前に都合の良い2択のウインドウは存在せず、求められるのは常に自由記述式だけ。選択肢は恋愛ゲームだったら隠しキャラの難易度かもしれない。
とりあえず唐突に思える話題の意味を考える。彼の視線の先に映るのは、変わらず流れている物語だ。場面が変わり、今は主人公の男が一人寂し気に電車に揺られている。視界、電車……それらを辿って、昔二人で配信したあるゲームに思い至った。
レイマリさんの言葉に改めて記憶が掘り起こされる。誘われてやったゲームだったが、確かに印象的なものだった。こちらはまあ、あまり気持ちの良い視界ではなかったことは確かで、配信後にレイマリさんのアーカイブをみて随分と驚いた。あれが実際に起きたら……まあ、嫌だわな。
こちらの答えは満足いただけなかったらしい。ちらりと目線だけそちらに向けると唇をとがらせて不満そうにする横顔が見えた。……すねた顔も可愛いな。そのまま両手で持ったマグカップをに口をつけ、だけど熱かったのかぴゃっと直ぐ離す。そのとがらせた口のままふうふうと息を吹きかけた。ふわり、とチョコレートの香りがこちらまで広がる。俺も口の中が寂しくなってマグカップを手に取った。
レイマリさんの二の舞にならないようゆっくりと口をつける。じんわりと甘さと温かさが身体に染み渡った。……しかし、他の人と違う視界が嫌、か。ふとどこかの本で読んだ話を思い出す。
手に持ったマグカップを机に戻す。そしてレイマリさんの両手におさまったそれを指差した。
レイマリさんは手元のマグカップをしげしげと見つめながら首を傾げている。……とりあえず話し出したのはいいけれど、説明が難しいな。
こっち、と言いながら今度は俺のマグカップを指差す。少しだけ中身を減らしたそれは、湯気が消えてきてちょうど良い温度になっていそうだ。レイマリさんは傾げた首はそのままにまた手元の液体に口をつける。こくり、と小さく喉を鳴らしてから口を開く。
普段やれ狂人だレイマリマジックだなんだ言われている彼は、それでいて村民の中では頭脳派な方だ。指摘されたのはもっともな部分で、確かに最初の部分と後半は繋がった話ではない。コホン、と誤魔化すように咳払いを一つ返した。
ぱちぱちと瞬かせながらこちらへ視線を移して見上げてくるレイマリさん。上目遣いの瞳がキラキラと光を反射して眩しい。その輝きに思わず目をそらしそうになると、レイマリさんの方から視線を下げ、肩に頭を乗せてきた。
急カーブを曲がるような話題の飛び方に、思わず初めて感情を知ったバケモノのような反応をしてしまった。いや、そういうことではなく。……多分、これは適当に答えちゃいけない。ゲームだったら間違えた瞬間バッドエンド行きだ。まだ何か言いたげな雰囲気を感じて、とりあえず黙る。すると時間をかけて、続きが彼の口から紡がれた。
そこまで言われてようやく点と点がつながる。突然やってきたのも、その割に口数が少なかったのも。そう、最後に会った日、俺たちはちょっとした言い争いになっていたのだ。きっかけはもう忘れてしまった、多分ちょっとしたことでいつもの諍いだったのだ。
ぐす、と小さく鼻をすする音。ああ、ずっとずっと前に選択肢を間違えてしまっていたことに気が付いた。確かに、レイマリさんと喧嘩しても、なんとなく次会う時はうやむやになって、それで終わり、みたいな感じだった。今回だって、俺たちを良く知る人が聞けばどっちもどっちだろ、と言われるような。だから、本当に気にしてなかった。
……いつも喧嘩別れした後、恐る恐ると言う風にまた近寄ってくる姿が可愛かったから、と言うのもある。だから全部許したくなってしまうのだ。でも、それじゃダメだったらしい。脳内のiemonにメテヲさんが加わって「そうやって調子に乗っているから痛い目にあうんだぞ」と言っている。……ぐうの音も出ない。
いや、今はそんな脳内の彼らと話している場合じゃない。今自分がすべきことは大切な恋人にちゃんと気持ちを伝えることだ。
ちらり、とこちらをみる視線。納得してないって色をしている。
思わず頭をなでると、レイマリさんはぷんぷんと頬を膨らませる。そう言いながらもようやく彼に笑顔が戻る。その様子に安心しながらひとしきり笑い合う。いつのまにか垂れ流しになっていたドラマは主人公がヒロインのもとへ向かって、夜の街を走っていた。
これで全部が解決するわけじゃない。だけど、少しだけレイマリさんに近づけた気がした。彼の返事のあと、また沈黙が生まれる。でも、それはさっきと違って心地よいもので。マグカップを手に取りまた一口。甘いホットチョコレート、今度はちょうど良い温度でするりと飲むことができた。
……ああ、そういえばこれを作ってくれるために、きっと彼はわざわざバイトの時間をずらしてまで、喧嘩して気まずくても来てくれたのだろう。一か月後の予定を思い出しながら、どんなお返しが良いか想像する。それは、幸せな時間だった。
二人で配信していたゲームを盛り込みたかった&バレンタインネタを書きたかったけど色々中途半端なうえに遅刻しました……












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!