練習室に響き渡るメンバーの話し声。
1人で自販機に水を買いに行ったへチャンは扉を開けることを少し躊躇った。
特に理由があった訳では無い。
いつも通りメンバーとは仲がいいし喧嘩をしたとかでもない。
ただ、少し体が動かなかったのだ。
体調不良か??
いや、それは無いだろう。
無理やり体を動かして練習室の扉を開けた。
「あ、ヘチャナ遅かったじゃん」
と言いながら俺の方へ歩いてくるのは一個上のマクヒョンだ。
「あれ?コーラ買うって言ってなかったっけ?」
なんて肩を組んでくる兄に心臓がドクン、と跳ねた。
「あー、なんか気分じゃなくなった」
と言えば、
「なんだよそれㅎ 」
と愛おしい笑顔で笑うのだ。
その瞬間を見ると俺は胸が締め付けられた。
俺はマクヒョンのことが好きだ。
メンバーとか兄としてではなく、恋愛として。
初めは兄として尊敬していて好きであったが、練習生が終わりアイドルとして活動することになった時くらいから恋愛感情を抱いてしまうようになった。
最初は勘違いだと思ったが、心に嘘は付けなかった。
けれど自分はアイドル。
ましてや相手は同じグループの男である。
誰が肯定的な意見を発してくれるだろうか?
同性愛を好む人もいるだろう。
だが、俺は世にいう腐女子は嫌いだ。
俺のようなゲイを肯定してくれているのかもしれないが下心しかない。
というか、ほとんどの人間がそうだと思う。
ゲイに偏見を持たない人でも必ず発する言葉は同じだ。
「そういう時ってへチャンがするほう?されるほう?」
「やる時ってやっぱり痛いの?」
「初めから男が好きだったの?」
俺が今までどんな人を好きになったかなんて、今は関係ないだろ
すぐ下心ある発言をする。
実際自分が聞かれたら、変態、下心丸見え、プライバシーの侵害とか嫌な顔していうくせに。
平気な顔して同性愛者に失礼なことを言うんだ。
偏見しかないじゃないか。
結局はそうやって区切りをつけているのではないか。
「ヘチャナ?」
眉を寄せて何かを考えているヘチャンにマークが首を傾げる
「あ、ごめん。なんだっけ?」
「はじめから通して踊るってさ」
「おーけー」
「体調悪いなら休むか?」
「え?」
マークが少々心配そうな顔でへチャンを見つめる。
「え?!ヘチャナ体調悪いの?!」
と2人の会話を盗み聞きして飛びついてきたのはジョンウだった。
「違うよヒョンㅎ」
と笑いながら否定すればマークが怪訝顔で
「本当に??」
とへチャンに問いかける。
こういう時、ヘチャンは無理してでも嘘をつき練習を続けようとする癖があるためこうやって自然とマークが圧をかけながら聞いてくるのだ。
「本当だってば」
呆れ顔をしながらほら位置付かなきゃー、なんて言ってマークと出来るだけ目を合わせないようにへチャンはドア付近から離れた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!