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第20話

君と私
18
2023/07/17 12:17 更新


幼い君の声はなく

カセットテープだけが ただ回り続けている。



時間にしたらわずかだけど

私にはとても長く感じる沈黙ちんもく


返事を待つかのようにだまる君に伝えるとしたら

「未来の君は もういなく

過去の君の質問に答えることはできない…」



それが答えだ。




『ときどきボクはしんどくなる。

平気なときとそうじゃないときが

かわりばんこにやってくる。

たまに宇宙のこと考えて

怖くなるように

どうしようもないくらい

不安になって眠れなくなる。

ボクはトトヤンのように

強くないから…。

気にしないように…

気にしないようにしようとしても

どうしても気になって頭から

離れなくなっちゃうことがある。』

_私@ワタシ_
ワタシ
………

『学校のことだけじゃなくて

家でのこと…家族のこと…

天国にいるお父さんのこと…

そういうこと全部考えると

この世界にボクは 一人っきりで

いつか誰にも見えなくなって

消えちゃうんじゃないかって

思うときがあって…。

だけど、

ボクが未来にちゃんといるって

それさえわかってれば

安心して過ごせるんじゃないのかなって…

何回くじけても 何回でも

前に向かって進もうって気持ちになれる…

そんな気がするんだ。』


未来の君も私に同じようなことを

言っていたのを思い出す。

「先のことがわかれば…」

君がそう考えるようになった

きっかけにたどり着き

ようやくその言葉に納得できた。


今さらすぎる私の解釈かいしゃく



『だから…うん…

そーだね…うん。ボク決めたよ。

将来このカセットテープを聞いたとき

成長したボクが「未来にいるよ。」って

笑って返事できるように…

くじけるのも しんどいのも

これからいっぱい繰り返しても

それを目指して

ありのままのボクで

今日を明日を毎日を

生きて…生きて…生きてみる。』



きっと君は否定すると思うけど

トトヤンと同じくらい

君は強い。

私にはもったいないくらいの

自慢の彼氏だ。



『実はボクには家にも強い味方がいるんだ。

それは一曲の「歌」なんだけど…

お父さんが置いてったCDに

入ってた「歌」なんだ。

聴くと自然と涙が出て

心がすっとらくになる…。』


思い当たる君の言葉に

私の胸がトクトクと

鼓動こどうを打ち始める。


『ボクにとって

友達のように家族のように

優しく包み込むような感じで

いつも そばにいて守ってくれる

大切な「歌」なんだ。』



君にとって特別な歌…


自然と私のすぐそばにある

CDケースに目が行き

そっと手に取り見つめてみる。



『ボク…夢があって…

もし…もしもね…

いつか こんなボクのことを

好きになってくれる人に

もしも…出会えたら

一緒に この歌を聴きたいんだ…。』

_私@ワタシ_
ワタシ
……

『ボクは幸せのなりかたを知らない…

ボクも最初のお父さん

お母さんみたいになっちゃうかも…

でも、人を好きになってみたい。

また大事な人が

いなくなっちゃうのはつらい…

でも、誰かと一緒にいたい…

家族になってみたい。

ボクのなかで反対の気持ちが

ぶつかり合ってぐちゃぐちゃになる。

ボクが ずっと一緒に

誰かといられるのかもわからない…

自信がない…

けど、こんなボクでも

将来 一緒にいたいと思えるような

大切な人ができたら…

その人と二人で

ボクの大切なこの歌を聴いてみたいんだ…

だって、この歌を

一緒に聴いているときは…

そのあいだだけは

絶対に離れないで

隣にいられるってことだから。』



君と二人

部屋で寝転び並ぶ姿が

一瞬で頭の中によみがえる。



『ちょっと待ってね。

ちゃんと録れるかわからないけど

その歌 流すから。』



そう言って小学生の君がまた立ち上がり

何かを運ぶ音がした。

カチッという音がしたあと

歌のイントロがゆっくり始まる。



流れてきたのは

君がいなくなってから

私が毎日聴いている歌。


そのCDは今 私の手に握られ

存在し続けている。





幼き君と共に

ただ黙ってカセットテープから

流れるその歌を聴く。

目を閉じ静かに…



私が一番知っている。

この歌を君の隣で聴いていたのは

間違いなく私であるってこと。



私だけが知っている。




気が付くと私の目から

自然と涙が流れていた。

君がいなくなってから

初めて流す涙…



母が言ってた。

私がナマけたって世界は

1ミリも変わらない。

だったら、せめて今日くらい

自分に優しくしよう…

泣いてもいいんだって

許してあげよう…

君がいなくなったこと

そろそろ認めてあげよう…


今まで出せなかった涙がとめどなく

どんどん どんどん流れていく。



これが本当のサヨナラの合図だ。




最後まで歌を聴き終えたところで

過去の君がまた話し出す。



『歌を聴いてくれてありがとう。

このCDには

曲名も歌ってる人の名前も

書かれてなかったんだ。

透明なケースに

ただまっ白なCDが入ってただけで。

だから、ボク

この歌に「誰かの歌」って

曲名を付けて呼んでる。

未来のボクとも一緒にこの歌が

聴けてよかった。

そろそろテープも終わるし

これでおしまいにするね。

そしたら えーっと…

うん。じゃあまたね。』



…………



君の声がなくなり

しばらく無音むおんが続いたあと

テープも止まった。


部屋のなかに静寂せいじゃくが戻る。

_私@ワタシ_
ワタシ
……じゃあね…

もう二度と出会うことのない

幼き君にサヨナラをげた。






君の未来に君はもういない。




でも 君の大切な歌は

今 ここにある。




君を救った歌は

今度は私の大切な歌になった。



もしかしたら この歌は

君のお父さんが……

なんて思いもわいたけどよしておく。

わからないことに

勝手な予想をするのはもうやめにしよう。


私は運命の相手だったのか…

私と結婚したかったのか……


そんなふうに 君が私のこと

どう思っていたかってことより

私が君を好きだって気持ち

それを大切にしていこう。


過去の君に教わった強さ

私もそれを見習ってみる。


失ったことばかり考えるより

そこにあった日々を

愛しく想うことのほうが大切で…


何で君と私が出会ったのか…

理由なんてないのかもしれない。


過去の君が言っていたように

大事な人がいなくなり

とてもつらかった…。

けど、それでも私は

「君に出会えて良かった。」と

心底しんそこそう思っているんだ。




部屋で一人

おもいっきり涙を流す私。

だけど、心は静かに…温かく…

平穏を取り戻していく…









それから数日すうじつ経ち

私はまた君の故郷こきょうを訪れている。

君のお母さんにカセットテープを

届けるためだ。



「テープの内容がお母さんには

こくかもしれないです。」と

正直に伝えたら

「今は無理だけど

全て受け入れる準備ができたら

聞いてみようと思う。」と

君のお母さんは言っていた。

その表情は前よりほがらかで

少しずつでも前に進もうという

意欲が込められているようだった。



君のお母さんがカセットテープを。

私が君の大切な歌が入ったCDを。

君の思い出と共にそばに

置いておくことにする。



君の実家に行く前に

君のお母さんに連絡をしてもらい

君の友だち「ヤスくん」にも会い

カセットテープのことを話してきた。

テープの内容は大部分 せながら

当時の君がヤスくんに

感謝していたことだけ

伝えてみた。

ヤスくんは

ホッとした顔で少し涙目なみだめになり

「ありがとう。」と一言ひとこと

私に言ってくれた。

ヤスくんに伝えたこと 君が知ったら

どんな反応するかはわからないけど

私は言ってみてよかったと思っている。




カセットテープの中の君のことを

思い出し 君が過ごしただろう

風景を眺め一人歩く。



君のいないこの場所で

君を感じ懐かしみ

心がまた晴れていく。



そのうち キラリちゃんにも

会いに行き 君が好きだったこと

伝えてあげたっていい。

そのくらい 今の私の心は広く

み渡っている。

きっと、君が嫌がるのでやめておくけど。




歩きながら私の気持ちのように

晴れた空を見上げ

その先にいるはずの君を感じる。



いつの日か

私もそっちに行くだろうから。




そしたら君を見つけて

教えてあげよう。





君が最期さいごに残した漫画の推理

犯人は「幼なじみの男」じゃなく

人間でもない ただの

「通りすがりの犬」だったよって。






だから そのときまで







じゃあまたね。














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