『たったそれだけのこと。
でも 「K」にとっては
とんでもない 一大事だった。』
暗やみをまとったような声から
不穏な空気が流れ始めたのを感じた。
『トトヤンが…っていうより
クラスの「みんなで」って
盛り上がっているなか
それに従わない子が出てくるなんて
「K」は考えもしなかったから。』
大人になっても
「みんなで」って場面で
一人だけ断るのって勇気がいる。
だったら みんなに
合わせておいたほうが楽かもと
考えてしまうことのほうが
多かったりする。
みんなどこかで「外れる」ことを
怖がり生きている…。
『ボクはハロウィンパーティーに
参加しない子がいるのは
当たり前だと思うし
意見が違う子がいてもいいと思うんだ。
だって、みんな違ってもいいでしょ?
違うから面白いこともたくさんあるし。
それに、ボクはそんなトトヤンだから
好きだなって思える。』
たまに子どもの言葉に
ハッとさせられる。
子どもたちは大人が
うやむやにするようなことを
さらっときっぱり口に
してくれることがある。
それに対し大人は根拠もなく全否定したり
はっきりと返事をしないまま
放置したりする。
昔は自分も子どもだったくせに。
結果 子どもたちは
思ったことを口にしない
あやふやさを手に入れ
接した大人と同じように育っていく。
私も人のことは言えないのだけど…。
『でもね、思うんだ。
ある意味、「K」も
純粋なんじゃないかって。
一致団結。みんなで仲よく。
そうすることが正しいって
周りの人たちに教えられてきたから。
それをまっすぐ信じて
つらぬいているだけ…
それに、もともと「K」も
そんなヤツじゃなかったかもしれない。
みんなのために役にたちたい…
そういう気持ちで
クラスのために 友達のために
動いていたのかもしれない。
だけど、いつの間にか
「K」一人が頼られ感謝されることが
増えていって
みんなで「K」の言った通り
何かをやるってことが
当たり前になっていたから…
みんなでってときに
一人で違うことするヤツが
「K」は許せなかった…。』
いつもは当たることの少なかった
君の推理が
このときばかりは冴え渡る。
『「K」にとって今のクラスは
大事な「居場所」なんだ。
家とは違う…自分が中心になって
思い通りに動かせる場所。
「K」がボクに言ってきたことがある。
「モッチはよく一人でいられるね。
オレは大勢でいるほうが
楽しいし好きだから
一人とか無理。」って。
ボクはそのとき
「どっちでもいいかな。」
くらいにしか思わなかったけど。
多分、「K」にとっては
自分の「居場所」のなかで
理解できない行動をする
ヤツがいること…それが
どんどん、どんどん いやに
なっていったんじゃないのかな。』
自分の「居場所」を守りたい…
妨げられたくない…
子どものころなら
なおさらそういう気持ちは
強いのかもしれない。
『たとえば、同じ場所で
たくさんの人が一緒に過ごすとき
みんなで同じようにするのが
大事なこともあると思う。
でも、もし一人一人が違うことしてても
お互い許して認められれば
それはそれで問題なく
一緒にいることもできる…
そんな気がするんだ。』
ビールを飲みながら
賛同の意を表すように激しくうなずく私。
『えーっと…
だから何が言いたいかっていうと…
うまくは言えないんだけど…
学校でも誰か一人の言う通りに
みんなで動いていれば
問題も起こらないし
穏やかにいられるかもしれない…
そっちのほうが楽なことって多いから。
けど、それが合わなかったり
できない人は息苦しくなっちゃう。
それって、すっごく
すっごくツラいことだよね…。』
幼い日の君が
知る限りの知識と経験をかき集め
適切な言葉を探しながら
必死に自分ではない誰かを
守るために話している。
年齢は関係なく
一人の人間として素直に尊敬できる。
『ボクも今までそういうの
よくわからなかったし
考えようとも思わなかった。
でも…トトヤンに出会って
こういうふうに考えることが
できるようになって…
トトヤンにたくさんのことを
教えてもらったんだ。
学校の授業では教わっていないような
大切なこと。
ボクにとっても
トトヤンにとっても
そして、みんなにとっても
大切な何かを…』
珍しく君がたどたどしく
話しているけれど
言いたいことは十分理解できた。
それは、私も学校では教わらなかったし
きっと知らないまま
大人になってしまう人もいっぱいいる。
人との出会いや経験からしか
学べないことって絶対あると思う。
『結局 ハロウィンパーティーは
トトヤンを抜かした
クラスのみんな全員揃い
にぎやかに終わった。』
……………
『そのくらいからだった気がする。
トトヤンに対するみんなの態度が
変わっていったのは…』












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!