第3話

マスター
1
2026/01/03 01:43 更新
─────逢坂茜は、マフィアが嫌いだ。それがいつからかは、よく思い出せない。ただ嫌悪感があることだけは確かなのである。
茜
……
昨日、そんなマフィアに助けられたことに、茜の心は酷く荒んでいた。とにかく複雑な心境になっている。
茜
(…助けられたのは、ありがたいけど…)
よりにもよって大嫌いなマフィアに助けられた。それが茜の心にずっと突っかかって気分が悪い。今日はとりあえず食べ物を調達しようと、手ぶらで街に出る。
茜
……
彼ら彼女らはこの街を支配するマフィアだ。その事を考えれば、マフィアとずっと関わらずに生きていくというのは難しいというのは分かる。だが、茜の中で引っかかっているのは昨日の永夜の発言。
永夜
永夜
『ウチのボスは、意地が悪いんだよ』
茜
(マフィアのボスがなんだってんだ…アタシには、関係ない)
事実、茜とアイオライトのボスの間に特別な関係はおろか、面識すらない。なのにそんなことを言われても、ただ不可解なままの考えが残されるだけで気持ちが悪いのである。
茜
……
廃棄されていたゴミ箱を漁り、見つけたパンなどを取り出して踵を返す。すると、そんな茜に背後から話しかけてくる者がいた。肩に置かれた手を振り払い、その者の名前を呼ぶ。
茜
なんだ、お前か。秀仁しゅうじ
秀仁
秀仁
相変わらず反応が冷たいなー。またゴミ漁ってるのかい?
茜
……それがなんだよ
秀仁
秀仁
声をかけてくれればちゃんとした食料をあげるって言ってるだろう?何故わざわざゴミを持っていくんだい
茜
アタシに回してる食材なんざあるならお前の客にでもあげてろよ
気安い様子の男─────まき秀仁しゅうじは、茜がいつも漁っているゴミ箱にゴミを捨てているBARの店主である。小さな個人経営の店であり、昼はカフェ、夜はBARとして営業している。
秀仁
秀仁
頑固だなぁキミは
茜
…言いたいことはそれだけか?なら、じゃあな
茜は手をヒラヒラと振り、その場から去っていく。そんな茜を、秀仁は後ろから眺めているだけだった。
茜
……
冷え込みも緩くなってきたので、そろそろ喉の潤うものを見つけてこようと考えていると、目先にいた人物を見てきょとんとした顔になった。
目先にいたのは─────、
??
あ!あなたは…
茜
お前ら昨日の…
??
こんばんは。また会いましたね
隙のない少女と弱気な少女と再び会い、茜は少し近くに寄る。少女たちが何をしていたのか尋ねると、どうやら夕飯の買い出しに来ていたらしい。
茜
そういえばお前ら名前は?
??
あ!申し遅れました。私は…
明美
明美
飯塚いいづか明美あけみと言います!
夕
海野うみのゆうです
明美は無垢な笑顔で元気よく、海野はどこか胡散臭い笑みで当たり前のように名乗った。茜も自分の名を名乗り、少し話をする。
明美
明美
そういえば、逢坂さんはあの辺りにお住まいになってるんですか?
茜
あぁ。それがどうした?
明美
明美
いえ!ただあそこは最近、衛生環境があまりよくないと耳にするので…
茜
……工場か
夕
えぇ。新しい事業の拡大のため建てられた工場から、工場排水や排気ガスが大量に出ているらしく
茜
……一応伝えとくよ。じゃあな
明美
明美
あ、はい!また会えたら会いましょう!
明美は手を振りながら、本心からそう思っているように目を輝かせる。茜にはそれが眩しく見えたと同時に、複雑だった。
茜
(…マフィアなんて、大嫌いだ)
そのマフィアに助けられた。治療してもらった。また会おうと言われた。
─────マフィアも、悪い奴らばかりじゃないのかもしれない。そんな淡い期待が茜の中で浮上する。
茜
(いいや、やめろ。んな期待した所で…どうせ結果は同じだ。馬鹿馬鹿しい)
奥歯を噛み締めながら、いつもの場所へと戻っていく。
マフィアはマフィア。関わらない方が身のためだと、そう自分に言い聞かせた。
──────アイオライト内部、首領の間。
??
それで、例の子はどうだった?
夕
飢えたいい目をしていましたよ。ただ…今の彼女には命をかけて叶えるゴールがない。そこが課題かと
??
そうか、ありがとう。下がっていいよ
夕
では、失礼いたします
部屋に一人残った男は、頬杖をつき口角を上げる。そして、腕の下に置いてある書類を見下ろした。
その書類は茜のものである。ただ、全ては埋まっていない。
??
…君をきっと、私のもとへ率いれてみせる

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