─────逢坂茜は、マフィアが嫌いだ。それがいつからかは、よく思い出せない。ただ嫌悪感があることだけは確かなのである。
昨日、そんなマフィアに助けられたことに、茜の心は酷く荒んでいた。とにかく複雑な心境になっている。
よりにもよって大嫌いなマフィアに助けられた。それが茜の心にずっと突っかかって気分が悪い。今日はとりあえず食べ物を調達しようと、手ぶらで街に出る。
彼ら彼女らはこの街を支配するマフィアだ。その事を考えれば、マフィアとずっと関わらずに生きていくというのは難しいというのは分かる。だが、茜の中で引っかかっているのは昨日の永夜の発言。
事実、茜とアイオライトのボスの間に特別な関係はおろか、面識すらない。なのにそんなことを言われても、ただ不可解なままの考えが残されるだけで気持ちが悪いのである。
廃棄されていたゴミ箱を漁り、見つけたパンなどを取り出して踵を返す。すると、そんな茜に背後から話しかけてくる者がいた。肩に置かれた手を振り払い、その者の名前を呼ぶ。
気安い様子の男─────牧秀仁は、茜がいつも漁っているゴミ箱にゴミを捨てているBARの店主である。小さな個人経営の店であり、昼はカフェ、夜はBARとして営業している。
茜は手をヒラヒラと振り、その場から去っていく。そんな茜を、秀仁は後ろから眺めているだけだった。
冷え込みも緩くなってきたので、そろそろ喉の潤うものを見つけてこようと考えていると、目先にいた人物を見てきょとんとした顔になった。
目先にいたのは─────、
隙のない少女と弱気な少女と再び会い、茜は少し近くに寄る。少女たちが何をしていたのか尋ねると、どうやら夕飯の買い出しに来ていたらしい。
明美は無垢な笑顔で元気よく、海野はどこか胡散臭い笑みで当たり前のように名乗った。茜も自分の名を名乗り、少し話をする。
明美は手を振りながら、本心からそう思っているように目を輝かせる。茜にはそれが眩しく見えたと同時に、複雑だった。
そのマフィアに助けられた。治療してもらった。また会おうと言われた。
─────マフィアも、悪い奴らばかりじゃないのかもしれない。そんな淡い期待が茜の中で浮上する。
奥歯を噛み締めながら、いつもの場所へと戻っていく。
マフィアはマフィア。関わらない方が身のためだと、そう自分に言い聞かせた。
──────アイオライト内部、首領の間。
部屋に一人残った男は、頬杖をつき口角を上げる。そして、腕の下に置いてある書類を見下ろした。
その書類は茜のものである。ただ、全ては埋まっていない。

















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!