第2話

第二話:空への片道切符
8
2026/02/04 00:37 更新
ハルの出発を翌日に控えた夜。街には、予報よりも早く冷たい風が吹き荒れていた。
(なまえ)
あなた
「ハルにあげるね…これ。お守り」
私は、ハルの家の玄関先で、手作りの赤いお守り袋を差し出した。

中には、近所の神社で買った「無病息災」の札が入っている。
ハル
ハル
「ありがとう…頑張ってくるね!」
ハルは照れくさそうに笑い、大きなザックのサイドポケットにそれを丁寧に仕舞い込んだ。
ーー今回のハルの目的地は、厳冬期の北アルプス。ーー

プロの登山ガイドでも二の足を踏むような難所だ。
(なまえ)
あなた
「ねえ、ハル。やっぱり、行かなきゃだめ?」
私の言葉に、ハルは少しだけ驚いた顔をして、それから優しく目を細めた。
ハル
ハル
「うん…心配かけるかもだけど…。でも俺…るあを一生守れるくらい、強い男になりたいんだ」
ハルのその言葉の意味を、当時の私はまだ深く考えもしなかった。

ハルはザックを一度下ろし、胸のポケットからあの革表紙の『登山日誌』を取り出した。

そして、私の見ていない隙に、最後の方の白紙のページに何かを書き込み、そっと閉じた。
ハル
ハル
「……できた。ねぇ、るあ…これ。俺が山に行ってる間、預かっててくれないか?」
(なまえ)
あなた
「え? でも、これハルの大事な日誌でしょ? 山に持っていかなくていいの?」
ハル
ハル
「うん。中身はもう頭に入ってるし、何より、君に持っててほしいんだ。
……俺が帰ってくるまで、君との『約束の証』としてさ」
手渡された日誌は、ハルの体温でほんのりと温かかった。
(なまえ)
あなた
「分かった。……大切に持ってるね」
ハル
ハル
「…じゃあ、行ってくる」
(なまえ)
あなた
「うん。……絶対、絶対に帰ってきてね、ハル!」
駅の改札へと歩き出すハルの背中を、私はいつまでも、いつまでも見送っていた。

その夜。

るあが預かった日誌の最後のページには、ハルの乱れた筆跡で、こう記されていた。

『山を下りたら、るあにプロポーズする。指輪を渡したら…どんな反応をするのかな‥心配だな』

外では、窓を叩く風の音が、次第に激しい地鳴りのような音へと変わっていった。

北アルプスを、観測史上最大級の寒波が飲み込もうとしていた。

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