花火の音がする。
ここは近所の神社とその周囲の道路を使って行われている、夏祭り。大会とまでは行かないものの、まぁまぁな数の花火も上がっていて、地域では人気な祭りの一つだ。
と、まぁそんな夏祭りの中で1人立ち尽くす私は、一緒に遊ぶはずだった連れとはぐれ……た訳でもなく。
寧ろその連れが何時まで待てども来ず、1人悲しく休んでいたところだ。
幼馴染と呼んでいいのか迷う年齢差、関係性の私と連れ(のはずだった)翔は、どちらも普段から外で遊ぶような質ではない。今日だって私の母が浴衣を出してこなければこんなことにはならなかったはずだ。
1つの溜息とともに、思考を鮮やかな夜の花と共に空へ投げた。
「………あなた?」
『…ぁ、かける』
「ぼーっとしてたけど、大丈夫そ?」
『誰のせいだとお思いで?』
少し、打ち上げられる花火に見惚れていただけ。
そう言い聞かせて、空虚に染まっていた思考を戻す。
翔を待ってから何分経ったんだろ。
普段の高校生活では付けている、お気に入りの腕時計も外している。腰掛けていたここは神社の少し裏手にあり、当たり前に建物の無いので時計なんて存在していない。
少し思考を巡らせるも、ぼぅっとしていたからか体感時間もハッキリとしない。
見れば本人もショボンとして、まるで項垂れた我が家の愛犬の様。重ねて見てしまい、普段と同じく叱るに叱れ無くなった。これはもう諦めろ、ということだろう。
「何か食べたの?」
と、無事に復活して隣を歩く翔。
何か挽回したいという思いが透けて見える。
『特には何も。あんま動いてないし、お腹すいてない』
一蹴すると、瞬間わざとらしく体を強ばらせて軽く戯けてみせる。可愛げの無い言い方しかできない自分に反省しつつも、この関係性がとても心地良い。
ここから何か変わるなんて想像していないし、実際変わることは無いと思う。少なくとも憧れて追いかけた背中が横に並んで綺麗なものを見ている、という事実で既に満たされかけているのだから。
少しだけ膨らんだ春のつぼみは、とても怖いもので、自覚する勇気を持てずに蓋をしている。
恋愛事に現を抜かすクラスの友人と同じものになってしまう自分が怖かった。
関係が壊れたり、変わってしまうよりかは、今のまま気持ちに気付かないふりをしていたい。
臆病な本音は、翔と見る大きな大きな花とあまりにも対照的で、半歩程足をずらしたくなる。
「今日…来れてよかった」
『えっ…』
「遅れてごめん。あなたの浴衣姿に合わせようと思ったんだけど、時間かかって…」
そう、苦笑いする横顔に目が離せなかった。
傍に居ることに慣れてしまって、改めて伝える方法を忘れたフリをしている。こうして話してくれた今、思い出すべきな言葉。
『っ、ありがとう』
語尾が震え、周りの喧騒もあって聞き取れたか心配だった。それも、成長して少し上までに近づいた顔を見て、杞憂と知る。耳を赤くし、女子が羨む綺麗な目を見開いて私を見つめ返す翔の顔に、驚きがありありと浮かんでいる。
横に並んでいるだけだった手を握られ、体を引かれ抱き締められる。その刹那の行動を理解するのに数秒、驚いた声を発するのにまた数秒。
本人もよく理解していなさそうな表情で、思わず笑ってしまった。
『なんで翔もびっくりしてるの?笑』
「いや、言われると思ってなくて…」
『……翔、似合ってるよ』
「追い討ちっ!!?!」
『ンハッwwwwww』
「でもまぁ…あなたも素敵だよ…」
『…なんで翔が照れてるの』
「あーあー、逆になんであなたは照れないわけ?」
照れながら言われても、面白いが勝ってしまうんだ
と、先程までの雰囲気はどこへやら。
笑いの溢れる空気感に、再度安心する。
でもまぁ、一言添えるなら、
『……照れてない訳じゃないよ』
「えっ?」
小声で言って、屋台の方向へ逃げる。
下駄と浴衣で思うように走れないけど、私なりの勇気の1歩、種の1粒だ。
後ろから慌てて追いかけてくる翔には申し訳ないけど、この気持ちを埋めるためにもう少し走らせて。
変化した関係の先でも、
笑い合う未来の花を咲かせてみたいから。











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。