星奈side
風が涼しい
そう思うようになったのも最近だ
そうか、よく考えたらもうすぐ夏だ
私は夏が好きだ
いじめられることも知らない頃
私は親とのんきに祭りに行き、りんご飴を齧りながら花火を見たものだ
他にも、空になったラムネ瓶の中のビー玉を取り出して洗って
綺麗になったビー玉を集めては、一人でビー玉を描いた
あぁ、でもそうか
いじめられて緋梨に会うまで、私はほとんど一人だったな
友達なんていなくて
親としか話さなかったな
星奈「…楽しかったな」
あぁもう…
自分で"決めた"のに
"死ぬ手前"になって
なんで思い出を掘り起こしてしまうのだろうか
本能が、体が、死にたくないともがいている
それでも、私は死にたいと願っている
私が好き"だった"緋梨はもういない
もう、私に居場所はない
自分の住むマンションの屋上
普段立ち入ることはできないが、人柄の良い柊星奈を演じるおかげで
許可を取るのなんて容易いものだった
今日、私は死んでやると決めたんだ
緋梨に裏切られた日から約2週間
生きる気力もないのに、だらだらと今まで生きてきた
そんなある日思い付いたのは自殺
そうだ、生きる意味が見つからないなら死ねばいいのだ
そう思って今、私は屋上の上に立ってぼんやりとしていた
太陽の下にめったに出ないから
私は初めて、世界は広いのだと知った
でも、そんなの関係ない
死んでやる
生きる意味の見いだせないこんな世界で
生きる理由はないのだ
星奈「…はは…あははっ……あははははっ!」
不思議と笑いがこみ上げてくる
あぁ、久々に声を出して笑ったな
星奈「…ふふっ……さよなら…
さよなら私!」
そう言って、飛び降りた…はずだった
星奈「…ッ!」
緋梨「星奈!」
細い腕で、私の腕をしっかりと掴む緋梨
あぁ、怒りが湧く
なんなんだ、こんな時に…
緋梨「星奈、私はッ…!」
何かを言いかけた緋梨の言葉を遮るように、私は叫び、暴れた
星奈「煩い!
煩い煩い煩い煩い!
嫌い!大嫌い!
私のこと…裏切ったくせに…!
嫌い、大嫌い…離して…もう離してよ!」
緋梨「それでもッ…私は、星奈に…言わなきゃいけないことがあるのッ!」
そう言って、緋梨は私を引き上げ、抱きしめる
抵抗しようとしたが、緋梨に強く抱きしめられ、抵抗すらできなかった
星奈「離してッ!」
緋梨「星奈…聞いて…」
星奈「離して、離して…
嫌だ…離して…」
緋梨「離さないから…聞いてくれるまで、絶対に離さない…」
涙があふれる
だって
緋梨は…変わらない優しさで…
私の目を見ていたから…
星奈「…ッあ、かり…」
緋梨「お願い…聞いて…
星奈、私はただ_ 」
その時だった
慈音「時間切れみたいね」
緋梨「ッ…!」
聞いたことのある声がする
その瞬間、緋梨は絶望した顔で、声の方向を見ていた
緋梨が見つめた先にいたのは
慈音だった













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!