第39話

参拾壱時間目
961
2026/08/17 17:44 更新



雨明さんの回想中……


安倍雨明
安倍雨明
……ってことがあってな

佐野姉弟
なるほど
佐野命
佐野命
それでブラコンに
あなた
それで妖怪がダメに
安倍雨明
安倍雨明
そうやけど違う


あれから私達は、雨明さんの昔話を聞いていた。




しかし、幼少期からずっとセーラーに対する執着が変わらないとは……

ある意味 純愛、差し詰め変態だな。





佐野命
佐野命
だったらもっと早く晴明(ア レ)に退魔の力や妖怪のこと教えてやったらよかったのに…
安倍雨明
安倍雨明
それは、妖怪の存在を晴が認識する前に退治したり追っ払ったりするから、教える機会を失ったって言うか……
安倍雨明
安倍雨明
あまりにも力が強すぎるんで、それを抑える数珠もこっそり渡したんやけどな
あなた
あの数珠、てっきり先生のお父さんが作ったと思ってましたけど、雨明さんの自作だったんですね

最近流行りのDIYってやつですね。
封印グッズ自作系男子、私はいいと思いますよ。


私がそう言うと、

俺が作ってないし変なカテゴリ作んなや

と雨明さんに怒られ、命にも、

変に煽んな

と呆れながら言われた。




煽った記憶なんてないんだけどな。








それにしても、先生も中々面倒な星の元に生まれたものだ。

とことん巻き込まれ体質というか、
生まれた瞬間から人生ハードモード設定というか。




佐野命
佐野命
なんでまたアイツだけ…
特殊なのは性癖だけでいいっつーの

それはそれで嫌だけども


安倍雨明
安倍雨明
…これはあくまで俺の推測やが……
安倍雨明
安倍雨明
お前ら、生まれ変わりって信じるか?


雨明さんの一言に私達は少し黙る。





佐野命
佐野命
…そういう非科学的なのは信じない
あなた
右に同じく
安倍雨明
安倍雨明
疫病神と死神が何言うとんねん

というか死神、お前はずっと魂だの成仏だの非科学的なこと言っとったやろ。と後で雨明さんに言われたが、それとこれとは別である。









安倍雨明
安倍雨明
…とにかく、俺は晴が妖怪学校に行くんは反対や。お前らが退治されようが知ったこっちゃないが、
安倍雨明
安倍雨明
それで晴が傷つくんは嫌や
あなた
……


確かに。
晴明先生の危うさも、退魔の力のことも、兄として心配なのはよく分かる。


でも…本人の意思も聞かずに真っ向から反対するのは、いくらブラコンだとしてもやり過ぎじゃないか?





という言葉が喉まで出かかった、その時。


佐野命
佐野命
…その時は、俺がなんとかする


この張り詰めた空気を破ったのは、隣に立っていた命だった。


 
安倍雨明
安倍雨明
は?


命の発言に雨明さんは思わず顔を上げる。



佐野命
佐野命
だから俺がなんとかするって
佐野命
佐野命
ちょうどアイツに借りもできたところだしな
 
安倍晴明
安倍晴明
 お待た―……


その瞬間、背後から間延びした声が聞こえたが、命はそれを遮るように言葉を続けた。




佐野命
佐野命
まぁ確かに、晴明(せいめい)の力は強力だ
佐野命
佐野命
だが豆たちと比べたら、疫病神(オ レ)にはそこまで退魔の力は効かないはずだ

命は真っ直ぐ雨明さんを見据える。



佐野命
佐野命
万が一、妖怪たちに害が出るなら……
その時は俺が止める



安倍雨明
安倍雨明
…信用できるか。疫病神と死神なんか

その空気を裂くように、雨明さんの低い声が落ちた。

次に命は雨明さんの方に向き直る。


佐野命
佐野命
何言ってんだ。お前が信用してないのは
俺達じゃなくて晴明(おとうと)だろうが
安倍雨明
安倍雨明
!

命の言葉に雨明さんがパッと目を見開く。


佐野命
佐野命
ブラコンだって言うなら必死で先生やってる弟を信用してやれよ。 ブラコンの風上にも置けない奴め

命は視線を逸らし、肩をすくめる。


佐野命
佐野命
アレで本人、死に物狂いで頑張って
んだからよ
佐野命
佐野命
確かに変態で卑屈でお調子者で、動くたびにロクな目に遭わない奴だけど……

言われ様がスゴい



佐野命
佐野命
…それでも、必死で頑張る晴明を
俺はいい教師だと思ってる


命がそう言った瞬間、ボトッと何かが落ちた音と共に鼻をすする情けない音が聞こえた。








そして、その音の方を全員が振り向くと───

安倍晴明
安倍晴明
すんっ……


そこには、目を潤ませた晴明先生が両手で顔を覆い震えていた。

どうやら、全部聞いていたらしい。

安倍雨明
安倍雨明
は、晴!?
佐野命
佐野命
ゲッ
安倍晴明
安倍晴明
さ、ささささささ……
 
安倍晴明
安倍晴明
佐
安倍晴明
安倍晴明
野
安倍晴明
安倍晴明
くぅぅぅぅううぅううんッッッ!!!(泣)
 
先生が一直線に命へ飛び込み、命の体が後ろへ押し出される。



ドボ───ッン!!!


水柱を上げながら提灯の光を反射して水滴がきらきら散り金魚が一斉に逃げ惑う。





ビニールがぐにゃりと沈み、二人は
そのまま金魚すくい用のビニールプールへ落ちていった。



安倍晴明
安倍晴明
嬉しい、嬉しいよぉぉぉ!!!(泣)
安倍晴明
安倍晴明
ぼ、僕も妖怪学校で先生頑張りたい!!
これからも、ずっと!!!
佐野命
佐野命
ふーん……

先生は命の上に覆いかぶさりそう言った。

一見すれば、ちょっとした感動シーンに見えるかもしれない。



まぁ、倒れたところが水の溜まったビニールプールじゃなければの話だけど。









佐野命
佐野命
で?

先生の顔からすっと血の気が引く。

ようやく自分のやらかしに気づいたみたいだけど、時すでに遅し。

命は無言で先生の襟首を掴み、横のケバブ屋台へと移動する。





安倍晴明
安倍晴明
ヒェェェッッ!!
安倍晴明
安倍晴明
ごめんよ佐野君〜!!(泣)
謝るから、僕をケバブにしないで〜!!

逆さに吊り上げられながら、そう懇願する先生の横でケバブ屋のおじさんが、なぜかノリノリで包丁を研ぎはじめる。


命はと言うと、そんな様子を冷めた目で見つめていた。


安倍晴明
安倍晴明
なんだよ!感動を返せよ!!寝ている間に
その髪ストレートにしてやろうか!!!


あ、それ言っちゃう?


先生がそう言うと、命の目がすっと細くなる。

そしてケバブ屋のおじさんにひそひそとなにか耳打ちをする。


安倍晴明
安倍晴明
えっ、ちょっと何ヒソヒソ話してんの!?
やめてよ!! 大声で何か企んでよ!!!



さっきまでの緊張感はどこへやら。

本当に、あの2人は。




私は椅子に腰を下ろし、遠巻きにその様子を眺める。


安倍雨明
安倍雨明
…オイ、死神
あなた
?

無愛想な声に私が振り向くと、雨明さんが腕を組んだままこちらを見ていたのだった。


 

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