第31話

戻ってくるって、知ってるから
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2026/02/21 05:24 更新
髙地side
楽屋に入った瞬間で分かる。

今日も、慎太郎は囲まれてる。

ジェシーが大げさに笑わせて、
樹が負けじと距離を詰めて、
北斗が冷静な顔でさりげなく隣をキープして、
大我が面白がって煽ってる。

真ん中で、慎太郎は笑ってる。

(あーあ、また始まった)

俺は少し離れたところに腰を下ろす。

焦らないの?って、前に樹に聞かれたことがある。

焦る必要ある?って返したけど。

本当は――
焦らないんじゃない。
焦らなくていいって知ってるだけ。

慎太郎は、笑いながらちゃんと全員を見てる。

その合間に。

ほんの一瞬だけ、俺を見る。

一瞬だけ目が合って、
すぐ逸らす。

それで十分。
「慎太郎、こっち来いよ」

ジェシーが腕を引く。

「やめろって!」

笑いながらも、今日はそのまま隣に座る慎太郎。

お、珍しい。

ちょっとだけ、胸がちくっとする。

(あー…俺も普通に嫉妬するんだ)

でも立ち上がらない。

追いかけない。

無理に奪ったら、あいつは嫌がる。
自由にさせてる方が、結局こっちに来るの知ってるから。

北斗が俺を見る。

「余裕だね」

「別に」

余裕なんかじゃない。

ただ。

知ってるだけ。
時間が過ぎて。

みんなが帰っていく。

最後に残ったのは、俺と慎太郎。

慎太郎はソファに寝転がったまま天井を見てる。

「なぁ」

「ん?」

「なんで今日、来なかったの」

少し拗ねた声。

俺は笑う。

「来なくても来るでしょ」
「は?」

慎太郎が体を起こす。

距離が近づく。

無意識に、俺の袖をつかむ。

ほら。

「…なにそれ」

「ほらね」

慎太郎、黙る。

目、逸らす。

でも手は離さない。

「俺さ、みんなといるの好きだけど」
ぽつり。

「でも、なんか…」

言葉を探してる。

俺は急かさない。

待つ。

「なんでもない」

そう言って、俺の肩に軽く頭を預ける。

自然に。

当たり前みたいに。

胸の奥が、じんわりあったかくなる。
勝った、とかじゃない。

そういうのじゃない。

ただ。

帰ってくる場所でいられたら、それでいい。

俺は慎太郎の頭を軽くぽんと叩く。

「俺、追いかけないよ」

慎太郎が顔を上げる。

「だって――」

少しだけ、笑って。

「戻ってくるって、知ってるから」

慎太郎、何も言わない。
でも。

袖をつかむ力が、少しだけ強くなった。

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