中也side
「雨」
俺は雨は嫌いじゃない。
俺だけが傘も持たずに外を歩けて、この世界でたった一人であることを突きつけられる、その刺すように冷たい孤独感が好きだった。
でもこの頃、やたらと外で太宰に会う気がする。
見かけるだけなら今までも何度もあったが、気づけば彼奴はこちらを見ていた。
雨の中では、俺だけが濡れないで歩いている。
全ての水滴が、俺を避けるように降り注いでいる。
誰も俺には触れられない。
誰にも、この束の間の平穏を壊すことはできない。
そう、思っていたのに。
ぽん、と太宰の手が俺の肩に乗る。
同時に重力操作の異能が解除され、あっという間に俺は濡れ鼠になった。
いつもの調子で怒鳴ろうとして振り返った時、そこにいつもの太宰はいなかった。
傘も持たず全身を濡らして、今にも泣きそうな表情でこちらを見ていた。
ゆっくりと、太宰が後ろから俺を抱きしめる。
暖かい、俺よりも大きな体が、小刻みに震えていた。
普通なら蹴り飛ばしているところだが、今日は大人しく抱きしめられることにした。
特に特別な理由があったわけではない。
何となく、そうしないと…もう二度と会えないような気がした。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!