【エピローグ】
「陸、卒業おめでとう」
『あなたの下の名前もおめでとう』
今日は高校の卒業式。
高校一年生の半ばから私たちは付き合っている。
陸は大学には進まないらしい。私は大学に通うことになっている。
離れるのはなんだか悲しいけれど、それもまた思い出だよね、と。
お互いに卒業おめでとうと祝いの言葉を交わして、
いつもみたいに「帰ろっか」って声をかけようと思った時陸がなにか言いたげな顔をしていたから
何かある?と聞いた。
『俺なんで大学進まないか言ったっけ』
「…言ってない!!!」
聞いたことなかったから、凄く気になった。
大好きな人のことってなんでも気になる。全部知りたい。
全部って言ったら欲張りだけど、いくらでも知りたいんだ。
『俺さ、アイドルになるために』
『韓国の事務所で練習生することになった』
「…練習生⁇」
「って韓国⁇!!」
韓国、韓国ってあの韓国⁇
流石に日本にいると思っていたから、海外に行くとは。驚きを隠せなかった。
遠距離恋愛をするってことかな。
じゃあ電話、たまにしよう。年に一回でもいいから会いに行こう。
そんな甘い考えなんてすぐ散った。
『…だからと言っちゃアレだけど』
『まだデビューしてない練習生でも、デビューしてるアイドルでも』
『恋愛系の…なにかががあると周りに迷惑かけちゃうし』
『ごめんねあなたの下の名前、俺も…嫌だけど』
『…嫌だけどさ、ずっと一緒にいたいけど』
『別れよ』
急に別れ話を切り出されたから理解するまでに数十秒。
でもここで別れたくない、嫌だ、離れないでなんて言ったら大好きな人の夢を邪魔して壊すことになる。
君の脳の片隅にそんな汚い思い出を残しておく訳にはいかないから、ショックで喉が詰まってしまって声が出ないけれど無理やり、つっかえながらも声を振り絞った。
「…そっか、」
「いいよ」
陸の夢だもんね。応援するよって。
アイドルになったら私生活がギリギリでもいいから一生懸命応援するね。
泣きながら言った。目に涙が溜まって、涙を流すつもりじゃなかったから必死で我慢したけれど、言葉を伝えれば伝えるほど涙がどんどん溜まってしまって目尻からポロポロと雫が落ちた。
陸の顔も、表情も。外の景色も何も見えなかった。
ただ君を想う気持ちが増えてくだけで。
『…ごめんね、あなたの下の名前ごめんね、⁇』
「ごめんなんて言わないで、陸が幸せになるならなんでもいいよ」
ぎゅっと抱きしめてくれた。
たくさんハグもキスもしたけれど、今までで1番悲しくて、苦くて、でもどこかに愛が籠っているハグだった。
「…ねえ陸」
『…なあに』
「最低で、意地悪で、自分勝手なこといってもいい、⁇」
『いいよ』
「最後に、キスしてよ」
「これで最後だから」
最後に接吻を求める私はどうかしてる。
でも、この寂しさを埋めるためにはキスくらいしてくれないと
…この先どうかしてしまいそうで。
『あなたの下の名前ちゃん大好きだったよ』
「…ん」
好きが過去形になるのも嫌だった。ずっと現在進行形でよかったのに。
・
・
・
2年後
陸がアイドルとしてデビューすることになったらしい。
君は今幸せになっているのだろうか。体壊さないか心配だな。
実の母かのように思うことがたくさんあった。
インタビューか何かで、陸が練習生の頃によく聞いていた曲を話した時があった。
日本で有名な失恋ソングを聞いていたみたい。
ファンの呟きを見ているとみんな彼女がいたんじゃない⁇!!と大騒ぎ。
その曲って私に向けてなのかなと思うときゅっと胸が痛くなって、でも何処かあったかかった。
まだ君の記憶の片隅に私はいるのだろうか。
少し月日が経った後、ライブに行った。
幸運なことに肉眼でメンバー全員が見える席だった。
ライブが始まるとメンバーが近くを通ったりした。
「…あ、陸だ。」
陸が近くに来た。気づくかな。
周りのファンの人にファンサをしたりしている。
「…りく!!!!」
周りの子もメンバーの名前を呼んでいるし、私も陸の名前を叫んでみた。
彼氏と彼女だった私たちが、アイドルとファンとして再開するとは思ってもないだろうけど
あっちが気づいたらいいななんて身勝手なことを考えた。
『…えっ、』
「…頑張ってね!!!!!」
気づいてくれたみたいで、あっちはこっちを見た途端めちゃくちゃ目を見開いている。
声覚えててくれた??顔かな?別にどっちでもよかった。覚えてくれているだけで幸せ。
頑張ってね、ファンという立場になって言える精一杯の言葉だった。
耳に届いたみたいでうんうん、と頷いてくれて、またすぐ別の人のファンサに戻る。
" 頑張ってね "
その言葉が君の幸せの、生きる活力の一部になったらいいな。
ハッピーエンド聴いてたらこう言うのめっちゃ書きたくなっちゃいましたㅠㅠ












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!