第19話

#18
158
2026/06/15 04:00 更新
多田野詩乃
それで?
どうしたのよ相談事なんて


居酒屋に到着し、お酒を飲みながらしばらく雑談をしていた頃




詩乃さんが話を切り出してきた

あなた
えっと………
最近実は変質者に狙われてたんです
多田野詩乃
あ〜!
あれね、裏道くんがあなたの下の名前ちゃんのこと追いかけたやつ
あなた
えっ?
知ってたんですか?
多田野詩乃
手紙と写真投函されてたんでしょ?
その次の日にあなたの下の名前ちゃんがひとりで帰ったから裏道くんが追いかけたの
そこで聞いたわ
あなた
あぁ、なるほど
多田野詩乃
それで、何かあったの?
まさか犯人がまた変なことをしたとか?!
あなた
いえ……
多田野詩乃
よかった……
あなた
犯人が昨日包丁で襲ってきたんですけど
多田野詩乃
えぇっ!?
大事じゃない!


ちょっと酔ってリアクションが大きくなった詩乃さん面白いな


まぁ、驚かせたのは私なんだけど




そんな不謹慎なことを思いつつ、私は話を続ける

あなた
すぐに取り押さえたので、この通り無事かすり傷もなく犯人は捕まったのでご安心ください
多田野詩乃
あぁ、確かお祖父さんが合気道の道場やってらっしゃるんだっけ?
あなた
はい、今は母の兄が継いだんですけどね
ですが、その時表田さんもその場にいて、一緒に警察に話を聞かれたりして時間も取ってしまったし、その後私は安心して泣いてしまったし、何より私のせいで危ない目にあわせてしまって………
多田野詩乃
うんうん
あなた
そして今日仕事に行ったら明らかに表田さんに避けられてたんです
だから、嫌われてしまったかもしれなくて
それを相談したかったんです
多田野詩乃
ふーん?


そう言って詩乃さんはなぜかニコニコしてお酒を一口飲んだ

あなた
………なんで笑ってるんですか
多田野詩乃
だって、あなたの下の名前ちゃん入社してからずっと周りに気を遣って合わせてる感じだったし仕事はちゃんとできるしで、頼ってくれるのが嬉しくて
みんな言ってたわよ「しっかりした新人が来てくれた」って


そんなことを思ってくれているなんて知らなかった



嬉しい



嬉しいんだけど…………






先輩方に変な人が多かったり、上司に適当な人が多すぎるだけだと一瞬思ったことは言わないでおいた

あなた
じゃあ………もっと甘えたり愚痴を言ったりしていいんですかね?
多田野詩乃
いいのいいの!
ジャンジャン言いなさい!
あなた
………正直、全く知らない誰かからの悪意はとても怖かったんです
だから表田さんがいてくれて安心しました
なのに、急にあれだけあからさまに避けられるとなんだか悲しくて
多田野詩乃
まあ、確かに今日は明らかにあなたの下の名前ちゃんから目を逸らしてた気がする
あなた
それに、普段は表情も絵も分かりにくいのに、避けているのは分かりやすすぎて
なんか無性にイラッとしました
多田野詩乃
えー、わかる!
私も未だ裏道くんのこと全然分かんないし絵も何描いてるのか分からない
でもあなたの下の名前ちゃん何が描かれてるか当てれてるよね?
あなた
あぁ、元から子供と接する仕事をしてて
ものすごく小さい子って、色も概念にする捕らわれなかったりするんです
緑色で丸と点々を描いてたから「メロン………?」って聞いたら「いちご!」って言われたり
多田野詩乃
えぇ、緑色はいちごだと分かんないわよ……
あなた
でも、自分が何を描いたか伝わる方が嬉しいじゃないですか
その結果お絵描き推察力が天元突破したんですよね
多田野詩乃
………小さい子と裏道くん、どっちの絵が分かりやすい?
あなた
うーーーん…………
人間は表田さんですかね?
一応人間に見えるし、特徴は押さえてますし
でも動物は子供の絵ですかね
多田野詩乃
子供の絵に負けるんだ……
あなた
表田さんと話すのは頭を使います
まぁ、それが面白くもあるんですけど
多田野詩乃
え〜っ、面白いの?
あなた
なんというか、とても興味深いです
予想外の結果が出てきた時に、どういう意図やプロセスを経て結果に至ったのかを考えて……
全てが繋がると「そういうことか!」って嬉しくて
多田野詩乃
あなたの下の名前ちゃんも大概変わってるわね
あなた
そうですね………よく言われます


そこからも結構ふたりで話した






チンダル現象という単語でいけてるお兄さんがずっと笑ってて床でピクピクしてたこととか


通常時以外の衣装が大概変だとか


出木田さんの指示が曖昧だとか


着ぐるみのわりにウサオくんとクマオくんの手足が長いだとか




そういう日常の小さな愚痴をいいながら酒はどんどん進んだ

多田野詩乃
はぁぁぁ………結婚したい
あなた
私も一度くらい彼氏がほしいです……
多田野詩乃
彼氏できたことないの意外よね
モテそうなのに
あなた
モテないわけじゃないんです
ただ、私のことを好きになる人って奥手な人が多いみたいで
高校でも私のことが好きな男の子がいたらしいんですけど卒業するまで話しかけられもしなくて、その後友達伝いで私のことが好きだって噂が耳に入ってきました
多田野詩乃
あー、じゃあ告白されたことはないのか
あなた
そういうことです
まぁ………度胸がない人はタイプではないのでいいんですが
多田野詩乃
幸せってなんだろうね……
あなた
そうですね………


酔っぱらい同士の不毛な会話


そして詩乃さんはまたため息をついた

多田野詩乃
はぁ……結婚したい
あなた
結局そこに戻ってくるんですね
多田野詩乃
だって、もう6年も一緒にいるのよ?
あなた
そうですね……
結婚した方がいいかどうかは私が一概に言ってしまえるものではありません
でも、「結婚したい」と詩乃さんが思うのは長い時間を共に過ごしてきたことを無駄にしたくないだけの可能性もありますね
多田野詩乃
どういうこと?
あなた
「これだけの時間を費やしたんだから」とか
「今までの6年がなくなるのが怖い」とか
それだけで結婚すると後悔するかもしれませんよ
多田野詩乃
あなたの下の名前ちゃんホントに私より年下?
あなた
ちゃんと27歳でーす
多田野詩乃
そうね………
でも、いざ離れるとなると嫌かも知れないわね
あなた
彼氏さんのこと好きなんですね
多田野詩乃
まぁ、うん………


恥ずかしそうに目を逸らす詩乃さんを見て、少し羨ましくなった


これだけ誰かを愛せたらきっと幸せなんだろうな




いつもどこかで一線を引いてしまう私とは違う

あなた
私、応援してますからね
多田野詩乃
ありがとう
あなた
でも、結婚してからもこうやって一緒に飲んでほしいです
あと、今度一緒にお出かけしたり
多田野詩乃
もちろんよ〜!
ふふっ、早速甘えてもらえて嬉しいわ〜


そう言って詩乃さんは笑った

プリ小説オーディオドラマ