第19話

第16話 厄日は今日か昨日か
1,750
2022/10/01 17:22
ボロボロの銀髪の男を背負いながら走る青年を、
薄暗い道ですれ違う何人もの人が目を背けた。

まるで、"見てはいけないもの"から目を背けるように。
????
あ、兄貴!?
それにカルーア!?
情報屋「カルーア」
情報屋「カルーア」
ウォッカ!!
ベッドは何処だ!?
ウォッカ
ウォッカ
ベ、ベッドでしたら…
仮眠室が空いてるはずですぜ!
情報屋「カルーア」
情報屋「カルーア」
案内してくれ!
ウォッカ
ウォッカ
か、かしこまりやした!
それにしても、どうしたんです!?
情報屋「カルーア」
情報屋「カルーア」
道で血を流して倒れてたんだ。
応急処置はしてるが、ちとキツいぞ
ウォッカ
ウォッカ
た、助かるんですよね!?
情報屋「カルーア」
情報屋「カルーア」
もし死んでも、よみがえらせるだけだ
ウォッカ
ウォッカ
蘇らせる…?
情報屋「カルーア」
情報屋「カルーア」
(あ、そういや…
ウォッカは知らないのか)
俺が"呪霊"というバケモノで、
"想像"するだけで国を滅ぼせられることも、
不死の軍団を作り上げることが出来ることも…
ウォッカ
ウォッカ
っと、仮眠室はここですぜ!
情報屋「カルーア」
情報屋「カルーア」
今からここを使う。
俺が許可するまで、誰も入れるな
ウォッカ
ウォッカ
へい!
呪力で扉を開け、ジンをベッドに寝かせた。
血は止まったが、まだ傷は塞がっていないし…

…おいおい、よく見たら内臓までえぐれてるじゃねぇか。
治療はあまり得意じゃねぇんだがなぁ…
そんなことも言ってられねぇな、こりゃ…
情報屋「カルーア」
情報屋「カルーア」
(扉は閉まってるし、
盗聴機やカメラの類いもない…)
情報屋「カルーア」
情報屋「カルーア」
(……よし、やるか)
情報屋「カルーア」
情報屋「カルーア」
『想像構築 反転術式』
そう唱えると、ぐらりと視界が揺れた。
クソッ…流石にキツいか…?
情報屋「カルーア」
情報屋「カルーア」
(そういや、ちょっと前に…
真人に反転術式について聞かれたっけ…)
~数ヶ月前 とあるホテルにて~
真人
真人
ねぇ、兄さん
(なまえ)
あなた
ん?
真人
真人
兄さん、たまに反転術式使うじゃん?
あれって、俺にも出来るの?
(なまえ)
あなた
あー……やめとけ
真人
真人
えっ、なんで!?
(なまえ)
あなた
あのなぁ…
分かりやすく言えば、
俺達呪霊は"負の感情"の塊だ
(なまえ)
あなた
"負の感情"と"正の感情"は真反対のもの。
相容れることはないものなんだよ
真人
真人
…つまり?
(なまえ)
あなた
特級呪霊ともなれば、負の感情が多い…
しかも、濃度も密度もえげつない
(なまえ)
あなた
そこに相容れない
"正の感情"を入れてみろ
(なまえ)
あなた
180℃に熱した大量の油に、
大量の水をぶちこむようなもんだ
真人
真人
あぁ、なるほどね…
呪霊という"器"が耐えられずに、
自分で自分を祓ってしまうってこと?
(なまえ)
あなた
祓うとはまた違うが…
まぁ、人間で言う"自殺"と同じだ
真人
真人
ふーん…
(なまえ)
あなた
しかも、習得は不可能に近い
真人
真人
そう?
(なまえ)
あなた
術式ってのはな、
元々"刻まれてる"ものなんだよ
(なまえ)
あなた
それを自力で習得するには、
それなりの覚悟と緻密な呪力操作が必要だ
真人
真人
じゃあ、兄さんはどうやって習得したの?
(なまえ)
あなた
俺は別に習得してるわけじゃないぞ?
俺に刻まれている"想像構築"で
"負の感情"を"正の感情"に変えて、
その"正の感情"を"反転術式"に使うだけ
真人
真人
それって、かなり呪力を消費するでしょ?
(なまえ)
あなた
そりゃあな。
同時に3つ展開するわけだし
真人
真人
2つじゃないの?
(なまえ)
あなた
1つは"負の感情"の変換、
1つは"反転術式"の創造、
1つは"反転術式"の使用…って感じ
真人
真人
創造と使用は一緒に出来ないの?
(なまえ)
あなた
無理無理ww
そんなことしたら、呪力が暴発する
真人
真人
ふーん…結構難しいんだね
(なまえ)
あなた
まぁな。
だからこそ長時間は使えねぇし、
あまり頻繁に展開することもできねぇ
真人
真人
もし限界を超えるとどうなるの?
(なまえ)
あなた
あー…どうだろ…
(なまえ)
あなた
多分、治療途中でぶっ倒れるんじゃね?
治療してた奴は生死を彷徨うだろうし、
俺は3日ぐらい意識飛んでると思うぞ
真人
真人
そうなんだ…
(なまえ)
あなた
ま、そこまで人助けはしねぇけどw
真人
真人
いや、兄さんならするよ
(なまえ)
あなた
(素直に育ちすぎだろ泣くぞ)
(なまえ)
あなた
…生意気な口は塞いでやらないとな
真人
真人
ちょ、やめ
(なまえ)
あなた
ほーら、こちょこちょこちょこちょ
真人
真人
あっははは!ww
やめ、やめて兄さん!www
(なまえ)
あなた
やーだねーw
数ヶ月前に話したばかりなのに、
記憶が断片的にしか思い出せなかった。

…いや、正確には"断片的にしか思い出せない"んだが。
情報屋「カルーア」
情報屋「カルーア」
案外、真人の方が俺のこと分かってたな…
なんて呟きながら、術式を展開し続けた。


せめて、俺の呪力が切れる前に治さねぇと…
明日約束した"デート"をドタキャンしてしまうし…
それに、なにより…








情報屋「カルーア」
情報屋「カルーア」
(死んだ人間を蘇らせる方が、
よっぽど手間だし呪力消費ヤバイし)
情報屋「カルーア」
情報屋「カルーア」
…ま、手早く丁寧に正確にやりますか
ザックリと開いた傷口を見ながら、
1つも間違えないよう慎重に術式をかけ続けた。



















どれほど時間が経っただろうか。
体感だと、5時間は過ぎてる気がする。
頭は痛いし吐き気はするし、疲労も限界に達していた。
呪力量も限界に近付いているが、治療は終わった。

抉れていた内臓も、神経も、血管も完璧に元に戻した。
…そして、治療を終えた後に気付いた。






これ、怪我をしてた部分だけ、
想像構築で時間を巻き戻せばよかったんじゃ…

と。
まぁ、そんな事を思っても後の祭り。
疲労の溜まった身体は鉛のように重い。

…だが、まだやることは残っている。
情報屋「カルーア」
情報屋「カルーア」
ウォッカ、居るか…?
ウォッカ
ウォッカ
へい!
情報屋「カルーア」
情報屋「カルーア」
悪い、かなり時間がかかっちまったな。
入ってきて良いぞ
ウォッカ
ウォッカ
失礼しやす
音を立てず、静かに扉が開いた。
情報屋「カルーア」
情報屋「カルーア」
ジンの怪我は完治させた。
だが、油断は禁物だ
情報屋「カルーア」
情報屋「カルーア」
せめて2日は休ませとけ。
鎖で縛っても構わねぇ
ウォッカ
ウォッカ
で、ですが…ボスが何と言うか…
情報屋「カルーア」
情報屋「カルーア」
カルーアからの命令だと言っとけ
ウォッカ
ウォッカ
め、命令!?
情報屋「カルーア」
情報屋「カルーア」
あいつは、俺にかなり恩がある。
それを1つでも返せるならって言うだろ
ウォッカ
ウォッカ
そ、そうですかい…?
情報屋「カルーア」
情報屋「カルーア」
あいつは絶対にそう思う筈だ。
言葉にしなくても、な
ウォッカ
ウォッカ
……分かりやした。
ボスには、そう伝えやす
情報屋「カルーア」
情報屋「カルーア」
悪いな、ウォッカ。
…そろそろ俺は帰るよ
ウォッカ
ウォッカ
顔色が悪いですし、少し休んでも…
情報屋「カルーア」
情報屋「カルーア」
約束があるんだ。
少しすれば体調も回復する
ウォッカ
ウォッカ
……
情報屋「カルーア」
情報屋「カルーア」
疑うなってのw
じゃ、俺は歩いて帰るわ
ウォッカの横を通り、仮眠室から出た。
…この呪力量じゃ瞬間移動も出来ねぇな。
仕方ねぇし、近くの墓地に寄って呪力回復して飛ぶか。
なんて考えていると、後ろから腕を軽く掴まれた。
情報屋「カルーア」
情報屋「カルーア」
どうした?ウォッカ
ウォッカ
ウォッカ
…ありがとな。
兄貴を、助けてくれて
情報屋「カルーア」
情報屋「カルーア」
……お前も、俺の弟子だ。
お前が倒れた時も治してやるよ
ウォッカ
ウォッカ
はは、バレねぇように気を付けますよ
情報屋「カルーア」
情報屋「カルーア」
そこは怪我しないように気を付けてくれ。
…じゃ、そいつ、ゆっくり休ませてくれよ
ウォッカ
ウォッカ
へい!
覚束ない足を無理矢理動かして、ビルから出た。
人気のない路地裏を通り、最短距離で墓地へ向かう。
情報屋「カルーア」
情報屋「カルーア」
(……厄日は今日か昨日か、分からねぇな)
なんて考えていると、墓地に着いていた。
墓地には悲しみや後悔などと負の感情が多いから、
それなりに呪力も回復出来るから、かなり便利だ。


RPGで例えると、無償で回復できる教会的な感じ。
情報屋「カルーア」
情報屋「カルーア」
ッあ"~~!疲れた~~!!
呪力で多少楽になった身体を伸ばし、空を見上げた。
宵闇の空に、うっすらと橙色の明かりが滲んでいる。

嗚呼、もう…朝になろうとしているのか。
真人はデートに行きたいところ、決まったかな。
ジンはちゃんと休んでくれるだろうか。
…いや、あいつはボスから命じられたら休むな。
そういう奴だ、あいつは。うん。



………ん?
情報屋「カルーア」
情報屋「カルーア」
…はは、なんだ
情報屋「カルーア」
情報屋「カルーア」
俺、アイツのこと結構大事に思ってんだな
でなきゃ、疲労が限界に達するまで治さねぇし、
呪力が限界に近付くほど全力で治したりはしない。
人間は呪霊よりも短命だから、あまり…
あまり、気に入らないようにしてたんだけどなぁ…
情報屋「カルーア」
情報屋「カルーア」
……まぁ、今日ぐらいは良いだろ


     『少しぐらい温湯ぬるゆに浸かったって』

プリ小説オーディオドラマ