ボロボロの銀髪の男を背負いながら走る青年を、
薄暗い道ですれ違う何人もの人が目を背けた。
まるで、"見てはいけないもの"から目を背けるように。
俺が"呪霊"というバケモノで、
"想像"するだけで国を滅ぼせられることも、
不死の軍団を作り上げることが出来ることも…
呪力で扉を開け、ジンをベッドに寝かせた。
血は止まったが、まだ傷は塞がっていないし…
…おいおい、よく見たら内臓まで抉れてるじゃねぇか。
治療はあまり得意じゃねぇんだがなぁ…
そんなことも言ってられねぇな、こりゃ…
そう唱えると、ぐらりと視界が揺れた。
クソッ…流石にキツいか…?
~数ヶ月前 とあるホテルにて~
数ヶ月前に話したばかりなのに、
記憶が断片的にしか思い出せなかった。
…いや、正確には"断片的にしか思い出せない"んだが。
なんて呟きながら、術式を展開し続けた。
せめて、俺の呪力が切れる前に治さねぇと…
明日約束した"デート"をドタキャンしてしまうし…
それに、なにより…
ザックリと開いた傷口を見ながら、
1つも間違えないよう慎重に術式をかけ続けた。
どれほど時間が経っただろうか。
体感だと、5時間は過ぎてる気がする。
頭は痛いし吐き気はするし、疲労も限界に達していた。
呪力量も限界に近付いているが、治療は終わった。
抉れていた内臓も、神経も、血管も完璧に元に戻した。
…そして、治療を終えた後に気付いた。
これ、怪我をしてた部分だけ、
想像構築で時間を巻き戻せばよかったんじゃ…
と。
まぁ、そんな事を思っても後の祭り。
疲労の溜まった身体は鉛のように重い。
…だが、まだやることは残っている。
音を立てず、静かに扉が開いた。
ウォッカの横を通り、仮眠室から出た。
…この呪力量じゃ瞬間移動も出来ねぇな。
仕方ねぇし、近くの墓地に寄って呪力回復して飛ぶか。
なんて考えていると、後ろから腕を軽く掴まれた。
覚束ない足を無理矢理動かして、ビルから出た。
人気のない路地裏を通り、最短距離で墓地へ向かう。
なんて考えていると、墓地に着いていた。
墓地には悲しみや後悔などと負の感情が多いから、
それなりに呪力も回復出来るから、かなり便利だ。
RPGで例えると、無償で回復できる教会的な感じ。
呪力で多少楽になった身体を伸ばし、空を見上げた。
宵闇の空に、うっすらと橙色の明かりが滲んでいる。
嗚呼、もう…朝になろうとしているのか。
真人はデートに行きたいところ、決まったかな。
ジンはちゃんと休んでくれるだろうか。
…いや、あいつはボスから命じられたら休むな。
そういう奴だ、あいつは。うん。
………ん?
でなきゃ、疲労が限界に達するまで治さねぇし、
呪力が限界に近付くほど全力で治したりはしない。
人間は呪霊よりも短命だから、あまり…
あまり、気に入らないようにしてたんだけどなぁ…
『少しぐらい温湯に浸かったって』
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。