第5話

Ⅳ
113
2025/04/11 09:35 更新
瀬戸梨菜
ドキドキするねー
通路を挟んだ席に座る梨菜が、はあっと息を吐いた。
瀬戸梨菜
旅行なんて久しぶりだもん
田中樹
田中樹
お前、バイトってこと忘れてるだろw
瀬戸梨菜
覚えてるよー、もう!
あなた
(さっきから、キャッキャッしやがって若者が)
あなた
(これから七日間、間近であれを見なきゃいけないのか…)
あなた
はぁ~
小さくため息をついたけどバイトをキャンセルする勇気が無かった自分を、ますます恨めしく感じる。
松村北斗
松村北斗
顔色、悪いけど、大丈夫?
隣に座る北斗くんが、控えめな声で訪ねてきた。
あなた
(あっ、ヘノヘノモヘジを意識してたのに、顔に出てたのかな…?)
あなた
あ、うん。ちょっと寝不足で、
松村北斗
松村北斗
俺も、
と、北斗くんがボソリ。
口数が少なく、表情が変わらない彼とは、どうやっても会話がはずみそうにない。
無理に話したいわけじゃないけど、隣で黙りっぱなしも気まずい。
あなた
北斗くんって何人家族?
松村北斗
松村北斗
えっ、あ
あなた
(申し訳ない北斗くん、自分でもマシな質問はないのかと思うよ…)
松村北斗
松村北斗
うちは、四人
あなた
兄弟いるの?
松村北斗
松村北斗
うん。小さい妹が
あなた
そっかー。いいなぁ。わたし、一人っ子だもん
松村北斗
松村北斗
そうなんだ、
あなた
うん
松村北斗
松村北斗
……N県は、初めて?
お、会話が続いた。無口男子なりに気を遣ってくれたのだろうか。なんか、すんません。
あなた
ううん、子供の頃に一度だけ、家族旅行で行ったことがあるんだ
あなた
(懐かしいなーあれはたしか八歳ぐらいの頃。お父さんの車でN県の田舎町行ったんだっけ。)
今となれば嘘みたいだ。自分たちが、家族旅行をするような仲のいい家族だったなんて、最近じゃ信じられない。
別に父親の借金や、母親の浮気とか、深刻な問題があるわけじゃない。だけどクダラナイ家族だ、とわたしは思う。

笑い合うことより、文句を言うこと、相手を否定することに力を注いでいる家族。



『あなたと結婚したせいで、わたしは—―—に会えなかったのよ』
ふいに、お母さんの尖った声を思い出し、わたしはそれを頭から追い払った。
あなた
北斗くんはN県行ったことあるの?
松村北斗
松村北斗
親戚がいるから、何回かは
あなた
へー。じゃあスキー得意なんじゃない?
松村北斗
松村北斗
いや、別に、
あなた
そうなんだ…
松村北斗
松村北斗
…うん
会話はそこで終了した。
あなた
(やっぱり続かなかったか……。)
しばらく押し黙っていると、梨菜が通路のむこうの席から声をかけてきた。
瀬戸梨菜
あなた昨日言ったやつ、持ってきてくれた?
あなた
あ、うん
見せて〜!と、せがまれたのでわたしはバックから小さな封筒を出して渡した。なんだ?と横からのぞきこんだ樹が、
田中樹
田中樹
うわっ!懐かしいな
と中を見ていった。
田中樹
田中樹
てか、なんでこんなもん持ってきたんだ?
瀬戸梨菜
わたしがあなたに頼んだの。新幹線の中でみんなで見たら楽しいかなーと思って
ちょっと変なとこで切ります!ごめんなさい!

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