――スンミン視点――
泣いている彼女を見るのは、正直つらかった。
肩を小さく震わせて、必死に声を抑えて。
怖かったことを言葉にするたび、胸が締めつけられる。
――間に合ってよかった。
それが、最初に浮かんだ感情だった。
でも同時に、遅かったかもしれないとも思った。
あそこまで追い詰められるまで、
俺は「様子を見る」なんて曖昧な距離にいた。
それが、腹立たしかった。
校舎裏で、彼女が泣き止むまで待つ間、
俺の中で一つずつ、感情が整理されていく。
怖い思いをしたこと。
声が出なかったこと。
助けを求めたこと。
全部、彼女の弱さじゃない。
それを利用しようとしたやつが、間違ってる。
家までの帰り道、彼女は少し疲れた顔をしていたけど、
さっきより呼吸は落ち着いていた。
そう言うと、彼女は小さく頷く。
アパートの前で立ち止まったとき、
一瞬、迷った。
ここで踏み込みすぎたら、
彼女にとって“重い存在”になるかもしれない。
でも。
断定だった。
選択肢を与える言い方じゃない。
でも、彼女は少し驚いたあと、
ゆっくり頷いた。
その返事を聞いて、胸の奥が静かに落ち着いた。
部屋に戻って、ドアを閉める。
一人になると、ようやく感情が表に出てくる。
――ジフン。
あいつの顔が浮かんだ瞬間、
喉の奥が、冷たくなる。
表ではいい顔をして、
相手の不安に入り込む。
ああいうやつは、
「断られない相手」を選ぶ。
彼女は、選ばれてしまった。
もう、見過ごさない。
俺は、誰かを独占したいタイプじゃない。
束縛も、好きじゃない。
でも。
守るべき一線を越えてきたなら、話は別だ。
彼女が怖い思いをした事実は、消えない。
だからこそ、繰り返させない。
――俺が前に立つ。
それだけだ。
ベッドに腰を下ろして、天井を見上げる。
気づいてしまった。
これはもう、
「隣の席だから」とか
「隣人だから」とか、
そんな理由じゃない。
俺は、彼女を大切にしたい。
その気持ちに、
名前をつけるのは、まだ早いかもしれない。
でも一つだけ、はっきりしている。
もう、離さない。
怖い思いは、させない。
それが、
今日の夜に俺が決めたことだった。














編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!