朝。
冬の光が薄く部屋に入り込んで、白い布団がふわっと照らされた。
四季は丸くなったまま、もぞ……っと動いた。
昨日のショッピングモールの疲れが少し残っているのか、目を開けるまでに少し時間がかかる。
ぱち、とまぶたが上がる。
周りに誰もいないことに気づくと、四季は布団の端をきゅっと握りしめた。
でも――すぐに、とことこ、と小さな足音で部屋を出る。
声は相変わらず小さくて、柔らかくて、聞いたら抱きしめたくなるような甘い呼びかた。
廊下に出ると、花魁坂がちょうど部屋から出てきた。
目元にまだ眠気を残しながら、四季の姿を見てふっと笑う。
四季はぱぁっと顔が明るくなる。
とことこ近づいて、花魁坂の服の裾をぎゅっと掴む。
花魁坂はしゃがんで目線を合わせた。
その声に、花魁坂の心が一瞬だけチクリと痛んだ。
――昨夜、黒い車の話でずっと緊張してた。
四季を狙う影が確実に迫っている。
その事実を、まだ四季は知らない。
だが、花魁坂の表情は優しいままだ。
四季は嬉しくなって、花魁坂の手をぎゅうっと握る。
その手は相変わらず軽くて、あたたかくて、守らなきゃ壊れそう。
二人でリビングに向かうと、皇后崎・無陀野・淀川がすでにテーブルへ料理を並べていた。
気配に気づいて淀川が振り返る。
むーっと頬を膨らませる四季に、淀川がいつものようにわざと意地悪そうに眉をあげる。
その可愛い反応に、昨夜の緊張が少しだけ解ける。
皇后崎は湯気の立つ味噌汁の椀を並べながら、
と声を柔らかく落とす。
四季は花魁坂から手を離して皇后崎のところへととことこ歩く。
皇后崎の横にすっと座って、上を見上げた。
皇后崎は髪を一房だけ整えてやるように撫でた。
四季はくすぐったそうに笑って、皇后崎の袖をちょんと引っ張る。
無陀野が席に皿を置きながら話しかける。
本当に柔らかく、兄のように笑った。
四季は知らない。
昨夜、彼らがどんな表情で黒い車の意味を語り合っていたか。
敵対組織“黒桜会”が動き出していることも。
四季を狙う理由が二重に存在することも。
ただ、目の前の温かい朝食と、自分の名前を呼んで笑ってくれるみんながいることだけを感じている。
四季は、それで十分だと思っている。
だって今の四季にとって、幸せはとても小さくて、とても近いものだから。
両手を小さくあげた四季を見て、4人は自然と目を合わせて微笑んだ。
――守る。
この小さな子を。
たとえどんな組織が相手でも。
過去がどうであっても。
四季が知らないままでいられるように。
彼らの視線には、そんな強い決意が静かに宿っていた。











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。