第18話

はじめてのショッピングモール
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2026/02/09 10:00 更新
昼前の組は珍しく静かだった。

皇后崎・花魁坂・無陀野・淀川・遊摺部・並木度・矢颪――

いつも忙しい七人が、今日はたまたま全員休みになったのだ。
花魁坂京夜
……で?どこ行くの?
花魁坂が腕を組んで、ソファに座る四季をのぞきこむ。
並木度馨
しきくん、どこ行きたい?
並木度がしゃがんで目線を合わせると、四季はぱあっと顔を明るくした。
一ノ瀬四季
……おでかけ、したい……!
並木度馨
おでかけ?
一ノ瀬四季
うんっ……! いきたい……! おそと……っ!
四季がこんなに積極的に言うのは珍しい。

みんな顔を見合わせ、ほんの一瞬で答えが決まった。
皇后崎迅
ショッピングモールでも行くか
皇后崎がそう言うと、四季の目がまん丸になった。
一ノ瀬四季
しょっぴん……? もーる……? なにそれ……?
淀川真澄
でっかい建物だ。遊ぶとこも食べるとこもいっぱいあるぞ
淀川が詳しく説明すると、四季はぽかんと口を開けた。
一ノ瀬四季
……いく!!ぜったい、いく!
その元気すぎる返事に、七人全員の笑いがこぼれた。





モールに着いた瞬間、四季は完全にフリーズした。
一ノ瀬四季
……おっき……すぎる……
ひとりじゃ絶対に飲み込まれそうな巨大な建物。

人の声、音楽、フードコートの匂い――全部が初めてで、目を瞬かせるだけ。
皇后崎迅
大丈夫だ、俺らがいる
皇后崎が頭をポンと叩くと、四季はその袖をぎゅっと握った。
一ノ瀬四季
……じん、はなさないで……?
皇后崎迅
離さねぇよ
そこへ無陀野が四季の反対側から覗き込む。
無陀野無人
四季、手つなぐか?
四季はこくり。

無陀野の大きな手にちょこんと小さな手を重ねた。

すると――。
花魁坂京夜
えっ、四季くん俺ともつなぎたい!
矢颪碇
いやいや俺だろ
淀川真澄
うるせぇオメェら
並木度馨
俺も手あいてるよ?
遊摺部従児
みなさん、うるさいです
全員が四季の手を取りたくてざわつく。

四季はくすっと笑って、ぽつりと呟く。
一ノ瀬四季
……みんなの、て……あったかい……
その一言で七人の動きが止まった。
矢颪碇
お、おま……その言い方……
皇后崎迅
かわいすぎんだろ……
花魁坂京夜
死ぬって……
全員が胸を押さえて崩れ落ちそうになった。





モールに入ると、四季は完全にハイテンションになった。
一ノ瀬四季
うわぁ……! ひかってる……! おみせいっぱい……! あれなにっ!? これなに!? すご……っ!
矢颪がふきだす。
矢颪碇
テンション高ぇなぁ、四季……
一ノ瀬四季
か、かぜ……! あれっ!! なんか……くるくるしてるー!!
遊摺部従児
あれはエレベーターだよ
遊摺部が笑って説明すると
一ノ瀬四季
のる!!のるのる!!
皇后崎迅
はいはい、慌てんな。手ぇ離すなよ
皇后崎が後ろから支えてエスカレーターに乗せると、四季は身体を固めた。
一ノ瀬四季
……お、おちる……!!
皇后崎迅
落ちねぇって
一ノ瀬四季
ほんと……?
皇后崎迅
俺がいるだろ
皇后崎の言葉で、四季は安心してすり寄った。

その横で、花魁坂がじとっと皇后崎を見る。
花魁坂京夜
じん、ずるいんだけど?
皇后崎迅
は?知らねぇよ
花魁坂京夜
四季くん、今度は僕と乗ろ?
一ノ瀬四季
う、うん……!!


三階の広場に着くと、四季の視線が一点で止まった。
一ノ瀬四季
……わんこ……っ!!
ペットショップの前に飾られている小さな犬のぬいぐるみ。

四季はまっしぐらに走ろうとする。
無陀野無人
おい危ねぇ!!
無陀野が慌てて抱き上げる。
無陀野無人
走んな、迷子になるだろ
一ノ瀬四季
……あ、でも……わんこ……みたい……
四季がしょんぼりすると、並木度が手をあげた。
並木度馨
じゃあ見に行く?本物もいるよ?
一ノ瀬四季
い、いく!
店に入ると、四季はガラス越しの子犬たちに目を丸くした。
一ノ瀬四季
ちっちゃ……っ! ふわふわ……っ! かわいい……!!
ガラスに顔を押しつけそうになって、淀川に首根っこをつままれる。
淀川真澄
顔くっつけたら汚ぇだろ
一ノ瀬四季
や……!もっとみたい……!
その姿に、全員が笑ってしまった。
矢颪碇
連れて帰りたいのか?
矢颪が聞くと、四季は少し考えてから首を横に振った。
一ノ瀬四季
……わんこ、かわいいけど……しき、ぜんぜん……ちから、ない……だっこも、ごはんも、できない……
花魁坂京夜
……自分のこと、ちゃんと考えて言えるの偉くね?
花魁坂が感心したように言った。
一ノ瀬四季
しき、いま……たのしいから……それで、じゅーぶん……っ
その言葉でまた全員が撃沈した。





そのあとも、四季の“初めて”は続いた。



・大きな噴水に感動
・ゲームセンターの音にびくっとして花魁坂に抱きつく
・ソフトクリームをはじめて食べて笑顔爆発
・雑貨屋のキラキラに釘付け
・靴屋で矢颪に肩車されて喜ぶ
・フードコートで人の多さにびっくりして皇后崎の袖を掴む



どこへ行っても、四季はとにかく楽しそうで、七人はそれを見てずっと笑っていた。
皇后崎迅
しき、楽しいか?
皇后崎が聞くと、四季は満面の笑みで答えた。
一ノ瀬四季
……しき、いま……いちばん、しあわせ……っ!!
全員の足が止まった。
皇后崎迅
お、お前
並木度馨
簡単にそんなこと言うなんて……心臓止まる……
矢颪碇
かわいすぎだろ……
並木度なんてしゃがみ込んで頭を抱えていた。





帰り際、四季は少し疲れたのか、淀川の腕の中でとろんと目を細めた。
一ノ瀬四季
……ねむ……い……
淀川真澄
そりゃこんだけはしゃいだらな
一ノ瀬四季
……しき……また……いきたい……
淀川真澄
また連れてってやる
淀川が言うと、四季は小さく笑った。
一ノ瀬四季
……やくざ……なのに……やさしい……
淀川真澄
うるせぇ
皇后崎迅
俺らはお前には優しいんだよ
花魁坂京夜
当たり前でしょボクらだよ?
みんな口々にそう言って、眠そうな四季を守るように囲んだ。

その光景は、まるで――家族だった。






組に戻る頃には、四季は半分眠っていた。
一ノ瀬四季
……ただいま……
組長
おかえり。楽しかったか?
珍しく組長が出迎えると、四季は無意識のままにっこり笑った。
一ノ瀬四季
……しき……いっぱい……しあわせ……した……
その言葉に、組長だけでなく組員も思わず吹き出す。
組長
いい顔してんるね。よかったねぇ
四季はそのまま、真澄の胸に顔をうずめて眠った。

七人はそっと目を合わせ、微笑む。

――四季が“表の世界”で幸せを感じられる日が来るなんて。
皇后崎迅
また連れてってやろうな
皇后崎が小さく言った。

誰もが、その言葉にうなずいた。

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