時透さんは私を強く抱きしめたまま離さない。
嫌なわけじゃない。
むしろこうしていたいと思う気持ちもある…
でも 私は…何も思い出せないし
時透さんにどんな感情を持っているのかわからない。
時透さんは少し離れて
私の顔を見つめる。
…何を思っているのだろう。
そんなことを思っていたら
時透さんが手を私の頬に添える。
…やってみるって…
まさか…
時透さんの顔が近づく。
…さすがに…それは……
………
…わからないけど…
ものすごくドキドキして…
時透さんの顔が見れない。
時透さんは
心なしか 嬉しそうな顔をしている。
それはもちろん伝わっている。
…でも、こんな半端なよくわからない気持ちで…
彼女は泣いていた。
…多分、申し訳なさからだろう。
僕は彼女を蝶屋敷へ帰した。
蝶屋敷に彼女を送り、帰ろうとした時
胡蝶さんに声をかけられた。
体が凍りつく。
胡蝶さんの判断が誤っていたことは
過去に一度もない。
…あなたの下の名前は順調に、少しずつ
回復していると信じていたけれど
…これから忘れていく可能性もあるのか…
僕は理解した。
僕が望んでいた
彼女と幸せに生きていける未来はもうない。
…今僕にできることは…なんだ…
体の力が一気に抜け
絶望した。















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!