第162話

第二章 19
121
2025/08/25 11:00 更新




(なまえ)
あなた
…あの…



時透さんは私を強く抱きしめたまま離さない。








  
無一郎
無一郎
嫌だよ。…しばらくこうさせて。






嫌なわけじゃない。







むしろこうしていたいと思う気持ちもある…








でも 私は…何も思い出せないし








時透さんにどんな感情を持っているのかわからない。













無一郎
無一郎
……





時透さんは少し離れて






私の顔を見つめる。











…何を思っているのだろう。












そんなことを思っていたら








時透さんが手を私の頬に添える。









無一郎
無一郎
…嫌?








(なまえ)
あなた
…わかりません…









無一郎
無一郎
なら…やってみて嫌かどうか教えて。






…やってみるって…









まさか…









   
時透さんの顔が近づく。












…さすがに…それは……












………










無一郎
無一郎
…嫌だった?








(なまえ)
あなた
……






…わからないけど…










 ものすごくドキドキして…






 



時透さんの顔が見れない。







   
(なまえ)
あなた
…嫌じゃ…なかったです…










無一郎
無一郎
そう…










時透さんは
心なしか 嬉しそうな顔をしている。











無一郎
無一郎
…なら、これからはずっとここにいてよ。僕がどれだけ君が愛しいか伝わったでしょ。










それはもちろん伝わっている。







…でも、こんな半端なよくわからない気持ちで…


















(なまえ)
あなた
…ごめんなさい…。




彼女は泣いていた。










…多分、申し訳なさからだろう。










無一郎
無一郎
…ごめん。辛いのは君の方だよね。







僕は彼女を蝶屋敷へ帰した。












胡蝶しのぶ
無一郎くん。少しいいですか。



無一郎
無一郎
はい…




蝶屋敷に彼女を送り、帰ろうとした時






胡蝶さんに声をかけられた。









胡蝶しのぶ
…あなたの下の名前のことですが、どう感じますか?





無一郎
無一郎
…記憶を取り戻す気配がありません。思い出せなくて辛そうです。





胡蝶しのぶ
やはりそうですか…。当初はすぐに記憶を取り戻すと思っていたのですが、なかなか時間がかかっていますね。



胡蝶しのぶ
…あまり考えたくはないですが…もしかしたら一時的な記憶障害ではない可能性ものあるかもしれません。





無一郎
無一郎
どういうことですか?



体が凍りつく。







胡蝶しのぶ
…記憶を取り戻すことなく、忘れていってしまう病気、かもしれません。




無一郎
無一郎
そんな……でも彼女は笑顔も出てきたし、僕のこともこの数日忘れていませんでしたが…






胡蝶しのぶ
…ええ、私のことも覚えています。なので確定しているわけではありません。ただ、時間がかかりすぎている。そして意欲が何もない状態ですので…




胡蝶しのぶ
他の可能性も視野に入れた方がいいと感じています。





無一郎
無一郎
……そう、ですか…







胡蝶しのぶ
まだそうと決まったわけではありません。今までと変わらずに関わり続けてください。…きっと、あなたの下の名前も喜ぶはずです。





胡蝶さんの判断が誤っていたことは



過去に一度もない。












…あなたの下の名前は順調に、少しずつ


回復していると信じていたけれど






…これから忘れていく可能性もあるのか…











僕は理解した。








僕が望んでいた 





彼女と幸せに生きていける未来はもうない。







…今僕にできることは…なんだ…










体の力が一気に抜け








絶望した。







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