大河の傍で寝てから、3週間が経った。
つまり、大河の部屋に帰らなくなって早1ヶ月。
仮眠室では、玲香さんと大河が交互で傍に居てくれるようになった。
しかし、大河は山田さんの事を知らない。
山田さんは、相変わらず私に声をかけてきた。
そして、相変わらずゴミは荒らされ、隠し撮り写真は毎日届いた。
家で洗濯している時間は勿論ない。
なので……
澪ちゃんにお願いしている。
勿論、ナースエイドの仕事に必要なものを優先し、時間が開けば、ということで洗ってもらっている。
いつもならここにずっと居たいと思えるのに、今は離れたいと思ってしまう。
ここに居たら、根掘り葉掘り聞かれそう。
私は部屋を出た。
最近は、近くに山田さんが居ないか警戒していて中々心が休まらない。
小さな物音にも、ビクついてしまう。
こんなの、何かありましたって周りに知らせているようなものだ。
振り返ると、笑顔の山田さんが居た。
私は頭を下げて山田さんの隣を通り抜ける。
山田さんは追っては来なかった。
走りたい。
走って逃げ出したい。
早歩きで廊下を歩く。
廊下の角まで行ったところで、誰かにぶつかりそうになる。
今回はぶつかる寸前で止まることが出来た。
ぶつかりそうになったのは夏芽さんだった。
あ、ヤバい……
目の前がチカチカする……
私は夏芽さんの声を遠くに感じたまま、意識を手放した。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!