ここは会社のオフィス。
朝は騒がしいここも、夜が更けてきて、
今は驚くほど静かだ。
カタカタと響く複数のキーボード音。
残業で残っている同業達はパソコンと睨めっこで
誰も言葉を発する者はいない。
私も早く終わらせなきゃ、
そう思っていると急に鳴った携帯の通知音。
こんな時間に誰だろうと思いながら、
携帯を手に取ると、見えたのは愛おしい彼女の名前。
迷いもなくそのメッセージを開ける。
その文字を読んで咄嗟に顔を上げる。
私から見て左斜め、
彼女専用のオフィスは
外から中は見えない構造になっていて、
扉や外の壁に掛かっている絵は高級そうだ。
さすがこの会社の最高幹部なだけあるなと
感心するのも束の間、
もう一度私の携帯が鳴って、
私はふと我に帰り、画面を見る。
あぁ、そうだ、中からは外が見えるんだったな。
そう思い、私は身の回りを適当に綺麗にして、
席から立ち上がる。
他の同僚や部下達を邪魔しないように静かに歩いて、
そのオフィスに入ると
彼女は目の前で仁王立ちで佇んでいた。
彼女の表情を見て思い出す。
私の恋人だから忘れてたけど、
この人、一応私の上司なんだよな。
仮にも社の最高幹部に呼び出されてるんだ、
私が何かやらかした可能性も十分にある。
そう思うと、色んなことが頭の中で回って、
彼女が私を見つめるこの状況が
とても威圧的に思えてくる。
そう丁寧に言うと、彼女はクスッと笑って、
私の方へと歩いてくる。
手渡してきたのは私の大好きな缶コーヒーで、
顔を挙げるといたずらっ子のように笑う彼女がいた。
2人の間に柔らかい空気が流れ出した瞬間、
ひどく安堵する私。
この悪戯っ子は後でお仕置きすることにして、
とりあえず彼女がくれた缶コーヒーを嗜む。
缶コーヒーを私の手から取って、
一口飲むと、彼女はそれをオフィスの机に置いた。
彼女の手が私の首をなぞって、
その途中で掴んだネクタイでぐっと引き寄せられる。
急なことに何もできない私を操るように
彼女はそっと私の手を取って、
ネクタイという手綱を引く。
近づいていく距離、重なった唇。
誇らしそうに笑った彼女は、
絶対に譲らないというような目で私を貫いて、
そう私の胸元を押す。
それは上司から私への業務命令。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。