それからというもの、まふちゃんと遊ぶ時間が多くなりました。
「おうあくちゃん、おうあくちゃん」
と言いながら私の後を着いて回るまふちゃんは親鳥を追いかける雛の様でとても可愛らしい。
しかし、当時の私は幼心に彼女を鬱陶しいと感じておりました。身勝手なのは重々承知しておりますが、その頃は私もまだ子供でしたので計画なしに行動する事が多々ありました。でもそんな事まふちゃんに面と向かって言えるはずがありません。だって私が「一緒に遊ぼう」と言ってしまったんですもの。それに私は(今もそうですが)とても気が弱い子供でしたので、中々本音が言えませんでした。
ですが、すぐ近くに私が困っている様子を見ている子がいました。
「……」
そう、あまちゃんです。あまちゃんは私がまふちゃんに追いかけ回されているのをずっと見ていました。時折、まふちゃんが御手洗などで私から離れるとすぐピッタリとくっついて「絶対に離れないからな」と言うような顔をしておりました。私はその行動の意味がよく分かりませんでした。そしてまふちゃんはといいますとその様子を見ると物凄い形相で怒るのです。
「ちょっとあまちゃん!!おうあくちゃんにくっつき過ぎじゃない!?」
「そんな事ないもん。」
「ある!そんな事あーーーるーーー!!」
まふちゃんは一度癇癪を起こすと手がつけられなくなる癇癪持ちでした。地団駄を踏み、大声で泣きわめき、その大きな瞳からそれまた大粒の涙を流すのです。事情を知らない大人から見たら完璧私とあまちゃんがまふちゃんを虐めているように見えます。
「あらあら、まふちゃんどうしたの?」
「おうあくちゃんが一緒に遊んでくれないの!あまちゃんもおうあくちゃんを独り占めするのーーー!」
「あらそう…ダメでしょう。あまちゃん、おうあくちゃん。一緒に遊んであげなきゃ。」
先生はそう諭します。でもまふちゃんの癇癪は治まりませんし、あまちゃんはふくれっ面になってしまいました。そして肝心の私はパニックに陥って目まぐるしくあまちゃんとまふちゃんと先生を代わる代わる見つめていました。
沈黙の中、口を開いたのはあまちゃんでした。
「……じゃないもん。」
「え?」
「おうあくちゃんは もの じゃないもん!!」
あまちゃんはそう叫びました。先生も周りにいる子達も驚く様な大声でした。
「まふちゃん酷いよ!おうあくちゃんが困るまで連れ回したらおうあくちゃんが可哀想でしょ!おうあくちゃんはまふちゃんのオモチャじゃないよ!」
「そんな事わかってるもん!」
「わかってないよ!まふちゃんはおうあくちゃんの事大切じゃないんだ!」
「大切だよ!」
女の子同士の言い争いはヒートアップしていきます。その時私は初めて「女の子怖い」って思いました。先生が一生懸命止めに入っていますが二人は全く聞く耳を持ちません。二人の言い争いが怖すぎて近くにいた年下の子は泣いてしまう程です。(その時の事を先生に聞くと「柵の外に近所のおばさん達が見に来てた」そうです。)慌てている私が先生をチラ見すると先生は私に口パクで「なんとかしなさい」と言いました。何とかしろと言われましても私も子供ですので…何か出来るわけではありません。しかし先生の何とかしろと言う眼差しにやられて私は二人に近付きました。
「ね、ねえ、ふたりとも」
二人はまだ言い合っています。
「止めなよ…」
聞いてくれません。
「ねえ!」
私が少し大きな声を出すと二人は私の方を見てくれました。
「や、やめな…」
「おうあくちゃんはどっちが大事なの?」
「えっ?」
「あまちゃんとまふどっちの方が好き?」
「そ、そんな…」
「どっちか選んでよ!」
「わたしはどっちも大事だよ…?」
「それじゃダメ!」
「ええ……」
おうあくしろよ、初めての修羅場です。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。