第50話

Episode 27.5
40
2026/04/03 22:00 更新


~ 松村 ~


今日はドラマの撮影で昼頃から仕事。

扉の前で伸びをしてから現場に入る。

扉のすぐ横にあなたさんが立っていた。
松村 北斗
おはようございます
あなた
おはようございます

いつも通り挨拶をするが、

なんとなくいつもと違う気がした。
松村 北斗
(声掠れてないか…?)

なんて思った頃にはあなたさんの姿はない。
松村 北斗
(気のせいじゃない、よな…)

そう思いながら台本を取り出して

今日の撮影パートを確認した。


リハが始まり、セリフや立ち位置を確認する。
スタッフ
松村さん、この辺でいいですか?
松村 北斗
あ~もう少しこっちでもいいですか?
スタッフ
お~…分かりました!

あなたさんを見ると明らかに顔色が悪い。

しかもなんとなく熱気を感じる。
松村 北斗
(……無理してるだろどう考えても)

他のスタッフは気付いてないかもしれないが、

同じ立ち位置に居ると案外分かる。

無理しているのかめんどくさいだけなのか。
あなた
なるほど…分かりました
松村 北斗
(どうする…止めるか?)

そう思って揺さぶってみることにする。

あえていつも通り話しかける。
松村 北斗
この後感情ちょっと強めですよね
あなた
…確かにそうですね…
松村 北斗
流れ的に、少し押した方が自然かも?
あなた
ありです

いつもより声は低いが理解はしてる。
松村 北斗
(余計に厄介だな)

リハが始まりセリフの確認をする。

あなたさんは間違えることなく

いつも通りに見える演技をする。

だからスタッフも監督も気付かない。
松村 北斗
(隠すのが上手すぎるんだよ)

そう思いつつ俺もセリフを言う。

いつもより自然に見える演技だった。
松村 北斗
大丈夫ですか?

リハが終わってからそう声をかける。
あなた
……大丈夫です
松村 北斗
(大丈夫じゃないだろ)

ふらついてるし呼吸も早いし、

さっきから体調不良が丸見えだ。
松村 北斗
……ほんとに?

この一言の返事に一拍間が開く。

が、
あなた
大丈夫です、やれます

そう言われてしまった。

どう考えても無理だろ、なんで…。

止めるには今しかない。

そう思っていたはずなのに、
松村 北斗
…分かりました

止めなかった。

そして何で止めなかったのか、

本番が始まるまでずっと考えてしまった。


さっきのリハ通り、撮影位置につく。
スタッフ
影月さん、ここからセリフお願いします
スタッフ
松村さんはここから出てきてもらって
あなた
…はい
松村 北斗
はい

立ち位置に動こうとすると、

あなたさんが明らかに苦しそうだった。
松村 北斗
あなたさん?
あなた

返事がない。動いてはいるけど。
松村 北斗
(もう止めよう、無理だ)

そう思って声を上げようとすると、
監督
はいじゃあ始めるよ~
監督
今回もいい感じに宜しくね

監督…今じゃねぇだろ!!

そう思ったが、もう始まってしまう。
監督
よーい、アクション
松村 北斗
何でって…お前がそうしたんだろ!

カメラが回りセリフが話される。

あなたさんを見れば案の定限界そうだった。

目の焦点が合ってない。

なのに、芝居は何とも自然だった。
松村 北斗
(もう止めるタイミングがない…)

そう思った瞬間、あなたさんの視界が揺れた。

セリフが出てきていない。
松村 北斗
(っまずい)

寄ろうと一歩踏み出そうとするが、

影月の視線はすでに落ち始めている。
あなた
…ごめん

一瞬パチッと目が合い、そう言われる。
松村 北斗
(やばい…!!)

止めようと体を動かすが間に合わない。

あなたさんの体がぐらっと崩れた。
松村 北斗
あなたさん!!!

必死に近寄り反射で手を伸ばし支える。

あの時止めていれば…

そう深く後悔を残しながら。


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