~ 松村 ~
今日はドラマの撮影で昼頃から仕事。
扉の前で伸びをしてから現場に入る。
扉のすぐ横にあなたさんが立っていた。
いつも通り挨拶をするが、
なんとなくいつもと違う気がした。
なんて思った頃にはあなたさんの姿はない。
そう思いながら台本を取り出して
今日の撮影パートを確認した。
リハが始まり、セリフや立ち位置を確認する。
あなたさんを見ると明らかに顔色が悪い。
しかもなんとなく熱気を感じる。
他のスタッフは気付いてないかもしれないが、
同じ立ち位置に居ると案外分かる。
無理しているのかめんどくさいだけなのか。
そう思って揺さぶってみることにする。
あえていつも通り話しかける。
いつもより声は低いが理解はしてる。
リハが始まりセリフの確認をする。
あなたさんは間違えることなく
いつも通りに見える演技をする。
だからスタッフも監督も気付かない。
そう思いつつ俺もセリフを言う。
いつもより自然に見える演技だった。
リハが終わってからそう声をかける。
ふらついてるし呼吸も早いし、
さっきから体調不良が丸見えだ。
この一言の返事に一拍間が開く。
が、
そう言われてしまった。
どう考えても無理だろ、なんで…。
止めるには今しかない。
そう思っていたはずなのに、
止めなかった。
そして何で止めなかったのか、
本番が始まるまでずっと考えてしまった。
さっきのリハ通り、撮影位置につく。
立ち位置に動こうとすると、
あなたさんが明らかに苦しそうだった。
返事がない。動いてはいるけど。
そう思って声を上げようとすると、
監督…今じゃねぇだろ!!
そう思ったが、もう始まってしまう。
カメラが回りセリフが話される。
あなたさんを見れば案の定限界そうだった。
目の焦点が合ってない。
なのに、芝居は何とも自然だった。
そう思った瞬間、あなたさんの視界が揺れた。
セリフが出てきていない。
寄ろうと一歩踏み出そうとするが、
影月の視線はすでに落ち始めている。
一瞬パチッと目が合い、そう言われる。
止めようと体を動かすが間に合わない。
あなたさんの体がぐらっと崩れた。
必死に近寄り反射で手を伸ばし支える。
あの時止めていれば…
そう深く後悔を残しながら。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!