第8話

捌 君について
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2026/01/13 12:00 更新
朝起きて、森を進む。

初日よりは格段に会話が増えた。

その内容は、もっぱら彰人の身の回りの人や過去についての話だ。

彰人は過去に何度か、小鳥の囀りさえずりだとか、川が潺潺せんせんと流れる音だとか、そういうのを話題に出したこともあった。

だが、冬弥が「聞こえない」と言うのでやめた。

話に一区切りついてから、彰人は疑問に思っていたことを尋ねる。
彰人
彰人
………妖を取り込んだ影響って、他にあるのか?
角、鉤爪、体力、体温、幻聴。

これだけでもう彰人的には腹いっぱいであったが、他にも影響がある可能性は十二分にある。

妖に手加減なんて言葉は通用しないのだ。
冬弥
冬弥
……悪夢と、牙
冬弥
冬弥
それと、背中に痣がある……らしい、です
彰人
彰人
らしいってなんだよ
冬弥
冬弥
俺自身は見たことがないんです
冬弥
冬弥
俺が追放されるか否かの裁判に掛けられた時に、初めて知りました
彰人
彰人
………へぇ
裁判に掛けられたことがあるようだ。

こんなどう見ても鬼にしか見えない男でも、追放するためには裁判という手順を踏まなければならないらしい。

まぁ、なんとも面倒くさい制度だ。

裁判をする前から、冬弥を追放するなんて決まりきったことではないか。

彰人はそんなことを思いながら歩を進める。

もうそろそろ還らずの泉に着く頃だ。

ということは、冬弥が妖を取り込む時も近づいているということ。

そこまで考えて、彰人はふと思い至った。

彰人は声量を大きめにして、冬弥に尋ねた。
彰人
彰人
そういやさ
彰人
彰人
お前、なんで妖を取り込んだんだ?
前は冬弥に無視された(と彰人が勘違いしていた)質問を再度投げかける。

本当に、これはずっと彰人にとって最大の疑問だった。
冬弥
冬弥
なぜ、ですか…………
少し考えてから、冬弥は言い放つ。
冬弥
冬弥
「最大多数の最大幸福」という言葉があります
彰人
彰人
なんだそれ
冬弥
冬弥
最も多くの人に最大の幸福をもたらすことが善である、という考えです
冬弥
冬弥
功利主義と呼びます
冬弥
冬弥
俺は、ただ……それに従っただけです
彰人
彰人
は……?
表情を変えずにそう言う冬弥に、彰人は肝が冷えた。

何を言っているんだ、この男は。

自分の幸福を度外視して、みんなのために。

何故なら、それが一番みんなにとっての幸福だから。

彰人は、宗教じみた考え方だと思った。
彰人
彰人
……最初、お前は、妖を取り込むなんてしてなかったんだろ?
彰人
彰人
なんで取り込むようになったんだ
彰人に冬弥のことを教えてくれた妖祓いは、そう言っていた。

最初は、妖を取り込むことなんてしなかったと。

寧ろ、妖祓いとしての規律をしっかりと守る、生真面目な人であったと。
冬弥
冬弥
……最初は、幾つも妖を取り込むことになるなんて、考えてもいませんでしたよ、俺だって
冬弥
冬弥
ただ……救いたかっただけなんです
冬弥
冬弥
俺にとっての恩人を

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