朝起きて、森を進む。
初日よりは格段に会話が増えた。
その内容は、もっぱら彰人の身の回りの人や過去についての話だ。
彰人は過去に何度か、小鳥の囀りだとか、川が潺潺と流れる音だとか、そういうのを話題に出したこともあった。
だが、冬弥が「聞こえない」と言うのでやめた。
話に一区切りついてから、彰人は疑問に思っていたことを尋ねる。
角、鉤爪、体力、体温、幻聴。
これだけでもう彰人的には腹いっぱいであったが、他にも影響がある可能性は十二分にある。
妖に手加減なんて言葉は通用しないのだ。
裁判に掛けられたことがあるようだ。
こんなどう見ても鬼にしか見えない男でも、追放するためには裁判という手順を踏まなければならないらしい。
まぁ、なんとも面倒くさい制度だ。
裁判をする前から、冬弥を追放するなんて決まりきったことではないか。
彰人はそんなことを思いながら歩を進める。
もうそろそろ還らずの泉に着く頃だ。
ということは、冬弥が妖を取り込む時も近づいているということ。
そこまで考えて、彰人はふと思い至った。
彰人は声量を大きめにして、冬弥に尋ねた。
前は冬弥に無視された(と彰人が勘違いしていた)質問を再度投げかける。
本当に、これはずっと彰人にとって最大の疑問だった。
少し考えてから、冬弥は言い放つ。
表情を変えずにそう言う冬弥に、彰人は肝が冷えた。
何を言っているんだ、この男は。
自分の幸福を度外視して、みんなのために。
何故なら、それが一番みんなにとっての幸福だから。
彰人は、宗教じみた考え方だと思った。
彰人に冬弥のことを教えてくれた妖祓いは、そう言っていた。
最初は、妖を取り込むことなんてしなかったと。
寧ろ、妖祓いとしての規律をしっかりと守る、生真面目な人であったと。














編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!