新学期が始まって、教室の空気がどこか落ち着かなくなっていた。
進路希望調査のプリントが配られて、みんなの話題は自然と“将来”のことになる。
「ひよりは、どこ行くの?」
隣の席の美咲が、プリントを覗き込みながら聞く。
「うーん……まだ決めてなくて。」
「そっか。神崎くんは?」
「蓮は理系だよ。工学部行きたいって言ってた。」
「へぇ〜、なんか似合う!」
その言葉に、ひよりは微笑む。
たしかに、蓮は何事にも真っすぐで、集中すると周りが見えなくなるタイプだ。
そんなところも、好きになった理由のひとつ。
でも——
(大学行ったら、会えなくなるのかな……)
心の中で、そっとつぶやいた。
⸻
放課後。
帰り道の空は、まだ冬の色を残していた。
並んで歩くふたりの吐息が白く溶ける。
「進路、書いた?」
「まだ。悩んでて。」
「そうか。」
蓮は少し考えるように空を見上げた。
「俺、県外の大学も視野に入れてるんだ。」
「……え?」
足が止まる。
その一言だけで、胸がぎゅっと締めつけられた。
「でもさ、別に“離れる”ってわけじゃないと思ってる。」
「……どういうこと?」
「たとえ距離ができても、気持ちは変わらないって意味。」
ひよりは俯いたまま、手袋の裾をぎゅっと握った。
「……わかってる。でも、ちょっと怖いよ。」
「俺も怖いよ。」
蓮が笑いながら言った。
「でもさ、怖いくらい“本気”ってことじゃね?」
ひよりの視線が、少しだけ上がる。
夕焼けに染まる蓮の横顔が、まぶしかった。
「なぁ、ひより。」
「ん?」
「俺、おまえと一緒に未来の話したい。どんな形でも。」
その言葉に、ひよりの胸が温かくなった。
(未来って、まだ何も見えないけど……)
(この人となら、きっと大丈夫だって思える。)
「……うん。私も、ちゃんと考える。」
「そっか。じゃあ、お互い本気出すか。」
「うん!」
⸻
校門の前で立ち止まると、
蓮が少しだけ照れたように言った。
「俺さ、今よりもっと“頼れる彼氏”になりたいんだよ。」
「もう十分頼もしいよ?」
「いや、まだまだ。……これから見てろ。」
ひよりは笑って、そっと蓮の手を取った。
「じゃあ、私も“自慢の彼女”になれるように頑張る。」
風が少し冷たく吹いて、二人の指先を包んだ。
けれどその温もりは、冬の空よりも確かだった。
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!