第68話

陸拾肆
268
2025/09/05 15:10 更新


あなた、貴女は覚えていますか?
私たちが出会った日を

しのぶ
柱就任おめでとう!



しのぶ
姉さん!
カナエ
ふふ、ありがとう、しのぶ

姉さんが花柱として柱に就任した日
カナエ
しのぶ
しのぶ
何?姉さん
姉さんは蝶屋敷に戻ってきてこう言った


カナエ
「鬼殺隊の姫さま」って知ってるわよね?
しのぶ
うん
当時の私は自分に素直で
しのぶ
(鬼かもしれないって噂の約400年眠り続けてる人か)
としか思えなかった
カナエ
ねぇ、しのぶ









カナエ
会ってみたいと思わない?
しのぶ
は?

しのぶ
(会う?どういうこと?)
しのぶ
(その人が近くにいるの?)
単なる興味本位だった
鬼かもしれないと噂されている女に会えるなら



どうしてその時に鬼舞辻無惨を殺さなかったのか問い詰められる
と、思っていました
ー 産屋敷邸 鬼殺隊本部 一室

カナエ
“あなた”様、入りますよ

姉さんはそう言って襖を開けた

カナエ
あら?
そこには誰もいなかった

しのぶ
姉さん、やっぱり居ないんじゃないの?
カナエ
そんなことないわ
カナエ
だって“あの時”目を覚ましたもの
しのぶ
“あの時”?


姉さん曰く、当時の柱たちは柱に就任後
貴女の御加護を受けようと
眠り続ける貴女がいち早く目を覚ますようにと
眠り続ける貴女の手を握り続けていたそうです

カナエ
しのぶ、お館様に屋敷を回る許可を貰ってくるから少し此処で待っててくれる?
しのぶ
分かったわ姉さん

姉さんが部屋から出て行ったあと私は縁側に座った
日差しが気持ちよかった


しのぶ
………ん?
その時、視界の端に何かが映り
私はその方を見た

しのぶ
(…………綺麗)
不覚にもそう思ってしまった
藤色の髪を下ろし
藍玉アクアマリンを埋め込んだような瞳はただ一点
振り下ろしている木刀を見ていた

しのぶ
(……木刀?)
少し疑問に思い私は彼女をよく見た

しのぶ
(姉さんから言われた特徴によく似てる)
ただの直感でしたが
しのぶ
__あなた様!?
あなた
………?
貴女は私の声に反応し、振り向いてくれました
しのぶ
っ!

彼女を見た時私は驚きました

400年眠り続け、伸びきっていた貴女の前髪の隙間から

額に燃えているような痣があり
書記にあった藍玉アクアマリンの瞳に光が宿っていなかったから



あなた
………誰、貴女
そう言う貴女はどこを見ているのか分からなかった
しのぶ
わ、私は……


その時
カナヲ
あら〜あなた様
カナヲ
お庭で稽古をしていたんですか?
姉が来た
しのぶ
姉さん…
あなた
………胡蝶さん
カナヲ
覚えてくれたんですか?
カナヲ
嬉しいです

姉さんはそう言っていつものように笑っていた
あなた
何となく、覚えなければならないと思ったから
あなたは姉さんの方を向いて言った

カナヲ
あなた様、紹介しますね
カナヲ
彼女は私の妹の胡蝶しのぶ
カナヲ
一般隊士ですが、しのぶも強いですよ

しのぶ
(姉さん、何言ってるの)
しのぶ
(私は弱い)
しのぶ
(姉さんみたいに呼吸が使えなかった)
しのぶ
(鬼の頸が斬れない隊士が強いはずがないじゃない)

あなた
………
貴女はただ、私を見ていましたね
しのぶ
っ!
私を見るその瞳は少し怖かった

見定められている感じがして
震えが止まらなかったのを覚えています


あなた
そうだね
しのぶ
………ぇ
あなた
貴女は強い
あなた
「鬼の頸が斬れないなら別の方法で殺そう」と考えているように感じる
しのぶ
なんで……

なんでそれを知っているの
貴女はさっきから私の何を見ているの
あなた
貴女、斬り技よりも突き技の方が得意そう
あなた
ふくらはぎの筋肉が尋常じゃない
あなた
それを活かせば貴女は強くなれる

あなた
多くの鬼を殺せ、多くの人の命を救うことになる

しのぶ
………

その言葉がとても嬉しかった
当時の私は自己嫌悪ばかりだった
姉さんのように鬼を斬れなくて
他の隊士よりも身体が一回り小さくて力が無い
それなのに脚には筋肉がついていた
それがとても嫌で仕方なかった
踏み込みに脚の筋肉は必要
でもそれじゃ鬼の頸を斬れない

結果的にアイツの頸も斬れなかった

あなた
別に元々ある呼吸のみで鬼を殺さなければならないという掟は無い
あなた
貴女の身体に合う呼吸を作ること
あなた
それが鍛錬よりも優先すべきことなんじゃないの?妹さんは
しのぶ
………


しのぶ
ありがとうございます
しのぶ
一度、考えてみます
あなた
うん、頑張って

その助言があったから
私は『蟲の呼吸』を作る決心をしました
しのぶ
(絶対に一匹でも多くの鬼を殺す)

それが姉さんとの約束のために必要なことだったから
それから私たちは貴女のお世話係として本部に足を運びましたね

しのぶ
あなた様ー入りますよー
料理を持って襖を開ければ

しのぶ
また居ない!!
布団にいないのは当たり前


しのぶ
あなた様!!!
あなた
………“しのぶ”
貴女はいつも同じ場所で木刀を振っていましたね

しのぶ
またご飯も食べずに稽古ですか!
しのぶ
駄目ですよ!!
しのぶ
そんなことしたら鬼殺隊復帰する前に身体を壊してしまいます!!
あなた
だって喉を通らないんだもん
あなた
無理に食べたら吐き出すだけだし
あなた
だったら食べない方がいいでしょ
あなた
畳を汚さずに済むんだから
そう言って貴女はまた鍛錬を始めましたね

しのぶ
貴女って人は……ッ!!
私はそれを停めようと思って手を伸ばしましたが

しのぶ
ッ!!
交わされてしまいましたね

しのぶ
あなた様!!!
あなた
……
しのぶ
待ちなさい!!
言うことを聞かない貴女を追い掛けたり

あなた
しのぶ、何読んでるの?
しのぶ
薬学に関する本です
しのぶ
私の呼吸を作るために研究しようと思って
あなた
……そっか
やっと食事をした貴女に興味を持ってもらって


あなた
…………
しのぶ
……あなた様
姉さんの訃報を聞いて涙を流した貴女を見たり



あなた
しのぶ“姉さん”
しのぶ
なんですか?あなた様
あなた
蟲の呼吸を教えてほしいの
しのぶ
………分かりました
しのぶ
良いですよ

姉さんの死により貴女は私のことを“姉さん”だと言ってくれたり


貴女と過ごした時間の一つ一つが私の宝物です
貴女は今日死ぬと言っていましたね
少し先で待っていますから

鬼舞辻を倒してから
彼岸こちらに来てくださいね
大正コソコソ噂話

藤崎は眠りから覚める前師範である継国縁壱の死を受け止めきれず感情を失いかけていました。ですが目が覚め、胡蝶カナエと胡蝶しのぶ、産屋敷家の人々と触れ合う内に感情を取り戻していきました。
完全に取り戻したのは胡蝶カナエの死です。藤崎にとって胡蝶カナエは目が覚めた瞬間にいた大切な人で姉のような存在で、それが引き金となって記憶以外の何もかもが溢れ出たようです。

また藤崎にはお館様のように先見の明を持っており胡蝶しのぶの未来が見えたのだと思います。

胡蝶しのぶが姉のように振る舞うことを決めた時、藤崎は『しのぶをこれ以上苦しませたくない』と思い『しのぶ姉さん』と呼ぶようになったんだと思います。
藤崎にとっての家族は双子の妹と継国縁壱とその奥さんであるうたさん、そして彼女のお腹の中にいた子供で大切な人が死ぬとその関係者の心には穴が空くということを知っているのでその穴を埋めようとしたのでは無いでしょうか。

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