第6話

第1記録 余白03
2
2026/06/29 17:07 更新
    教室の扉を開けると、そこはすでに新しい制服の群れで満たされていた。

 教室の扉を開けると、そこはすでに新しい制服の群れで満たされていた。

 黒板には、手書きの座席表が貼り出されている。新入生たちがそれを覗き込んでは、

「あ、俺ここだ」
「窓際じゃん、いいな」

などと口々に声を上げていた。
朝倉 大和
あなたの下の名前、お前どこだった?
     後ろから覗き込んできた大和が、あなたの下の名前の肩を軽く叩く。あなたの下の名前は人混みの隙間から自分の名前を探し出し、窓際の後ろから二番目の席を指差した。
あなた
あそこ。……朝倉は?
朝倉 大和
えーっと、俺は……お、マジか! お前の真後ろ!
 大和が座席表の”朝倉”の文字を指差して、嬉しそうに声を弾ませる。
あなた
……ただのランダムな配置だろ。ほら、早く座ろ。先生来ちゃうし
朝倉 大和
へいへい
    大和とあなたの下の名前は鞄を手に取り、指定された席へと向かった。

 木の椅子を引き、腰を下ろす。鞄を机のフックに掛け、ふぅと小さく息を吐きながら窓の外を見た。

 視線の先、突き抜けるような春の青空を二分するようにして、やはりあの『天蓋』が圧倒的な質量でそこに浮かんでいる。

 これほど巨大なものが空にあるのに、なぜ世界はこんなにも平穏を装っているのだろう。あなたの下の名前がそんなぼんやりとした疑問を抱いた瞬間、背後の席からガタコンと派手な音が響いた。
朝倉 大和
いやー、それにしてもさっきの生徒会長、凄かったよな!!
     大和が前のめりになって、あなたの下の名前の背中に話しかけてくる。そんな大和にあなたの下の名前は向き直す。
朝倉 大和
天羽千歳先輩、だっけ。凛としてるっていうかさ、あの人が壇上に上がった瞬間、体育館の空気がガラッと変わったもんな。……お前もそう思わなかった?
あなた
……まあ、目立つ人だとは思ったけど
朝倉 大和
だろ? あんな綺麗な人が先輩にいるとか、この学校に入って本当によかったわ
 大和は満足そうに椅子の背もたれに体重を預けた。

 あなたは再び窓の外に目を戻す。確かに、あの生徒会長の姿は妙に印象に残っていた。その時、前方の引き戸がガラガラと音を立てて開いた。
担任らしき女性
はーい、皆さん静かに。席についてちょうだい
 入ってきたのは、仕立てのいい落ち着いた色のスーツを着た女性教師だった。

 肩のあたりで綺麗に切り揃えられた黒髪に、穏やかな、けれどどこか全てを見透かしているような知的な瞳。彼女が教壇に立つと、それだけで教室のざわめきがすっと引いていった。
担任らしき女性
私はこれから一年間、このクラスの担任を務める桐生真琴です。担当教科は歴史。よろしくね
    桐生先生はチョークを手に取ると、黒板に流れるような筆跡で自分の名前を書いた。
 そして、コトン、とチョークを置くと、先ほどまでの柔らかな微笑みを消し、クラス全員を静かに見渡した。
桐生 真琴
さて。まずは入学おめでとう
桐生 真琴
……と、言いたいところだけど
    __その言葉に教室の空気が1度下がる
桐生 真琴
 常世ヶ原学園ここに来た皆さんには、お祝いの言葉よりも先に、伝えなければならない”現実”があります
……先生の声のトーンが、わずかに低くなった。

 窓から差し込む春の陽光が、なぜか急に冷たさを帯びたように感じられ、それぞれの背中に微かな緊張が走る。
桐生 真琴
皆さんは、あの空に浮かぶ『天蓋』がなぜ存在するのか、考えたことはあるかしら?
 桐生先生は窓の外を指差した。新入生たちの視線が一斉に、青空に浮かぶ不気味な巨大建造物へと向く。
※AI生成
桐生 真琴
あれは、この世界の”歪み”そのものです。いつからか空に現れたあの巨大な輪のせいで、世界には様々な異常が引き起こされている
桐生 真琴
……そして、あの天蓋を消し去り、世界を本来の正しい姿へ戻すための唯一の方法が、この世界中に散らばっている『歴史の欠片』を回収することなの
 先生の手が動き、黒板に二つの漢字が躍った。

__”碑欠はいへん
※AI生成
桐生 真琴
この学校、常世ヶ原学園の真の目的は、一般科目の学習ではありません。世界中に散らばった『碑欠』の回収……
桐生 真琴
および、それが眠る異常領域__『神域』の攻略。それこそが、人類の未来を背負うあなたたちに課せられた、この三年間、あるいは生涯の任務です
 教室が、静かな熱を帯びていく。

 世界を救うための戦い。自分たちが、その大役に選ばれたのだという高揚感が、新入生たちの間にじわりと広がっていくのが分かった。
桐生 真琴
先人たちの命がけの努力によって、多くの碑欠が回収されてきました
桐生 真琴
あの恐ろしい天蓋を崩壊させ、世界に本当の平和を取り戻すまで、あと少しのところまで来ているわ。…新入生の皆さん
 桐生先生は、黒板の端に、チョークでくっきりと数字を刻み込んだ。

『 108 』
桐生 真琴
現在、未回収の碑欠は、残り【108個】です
 先生は一呼吸置き、生徒たちを鼓舞するように力強く微笑んだ。
桐生 真琴
これをすべて回収した時、あの天蓋は崩壊し、世界はついに呪縛から解き放たれる。私たちの世代で、この戦いに終止符を打ちましょう
桐生 真琴
……さあ、ガイダンスはここまで。これから皆さんに、神域へ入るための適性検査と、最初の装備一式を配ります。心の準備はいいかしら?
 クラスのあちこちから、「おお……」という感嘆と、やる気に満ちた力強い息を呑む音が聞こえた。

 あなたの下の名前は、じっと黒板の『108』という数字を見つめていた。

 世界に平和を取り戻すための、希望の宝探し。それが、自分たちの高校生活の正体。

 ふと、後ろの席から、衣擦れの音がした。

 振り返ると、大和がいつものお調子者の笑みを完全に消し、真剣な、けれどどこか「やってやるぞ」と希望を宿した目で、黒板を見つめていた。

 あなたの下の名前の視線に気付いた大和は、一瞬だけ目を合わせ、小さく、頼もしげに頷いてみせた。

 窓の外では、満開の桜が風に舞っている。

 その遥か上空で、巨大な天蓋が、何も知らぬ人類を静かに見下ろしていた。

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