テントの隙間から溢れる陽射しに、青年は目を開く。
寝惚けた頭で昨日の事を思い出し、あの奇抜な髪色の─自分も似たようなものだが─彼女を探す。だがテントには誰もおらず、代わりに「少し離れる」とだけ書かれた1枚のメモが残されていた。
そう言うと青年は再びテントの中で寝転がる。然程高くない布の天井を眺め、青年は段々と目が覚めていく。
─いや。よくよく考えたら怪しくないか?
いやいやいや。いきなり現れて姉だ家族だ同じだなんて、考えなくとも怪しいだろう。私は莫迦か。
ふと我に返った青年はがばりと起き上がり、辺りを見回す。テントの中には、彼以外誰もいない。物も少ない。しかしこれは、逃げ出すには絶好のチャンスだ。
……私の為にあの組織の奴らを殺してしまう程、あの女は私を思っていた、と言っていた。
その思いを無下にしてしまうなんて、私には……。
こんなおかしな女に付き合ってられるか。よし、出ていってしまおう。
青年がテントから足を踏み出したその瞬間。
丁度戻ってきた彼女と、バッチリ目が合ってしまった。
若しかしたら、私が逃げ出すことを予感して戻って来たのだろうか。兎に角、何か釈明をしなければ……。
彼女が差し出したのは、紐の巻かれたハムだった。
……ハム?何故?
……まさか、これは。
いや、これも。
その言葉に、デルタは凪いだ表情で頷く。
手に握ったナイフでハムに巻かれた紐を切る。ブチブチ、という繊維の千切れる音が聞こえ、思考が現実に引き戻される。
何処かから、そんな声が聞こえた。
聞き覚えのある声だ。ついこの前まで、私が聞いていた声。その声に、青年は息を詰まらせた。
二人の前に現れた男は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべてデルタを見下ろした。
この男は私が監禁されていた組織の長だ。非常に残虐で冷酷な、血も涙もないような男。
噂によれば彼は「視認した相手の心臓に必ず弾を当てる」という異能力を持っているらしく、その強力な異能力を前に生きて帰れた人物は、誰一人として存在しない。
そう挑発的に笑うデルタ。長はぴくりと眉を顰め、自身の腰に引っ掛けてあるホルダーに収めた回転式拳銃に振れる。
その声と共に、全方向からカチャリと音が鳴った。長が戦場に出るとなれば、勿論長に従う兵も戦場に出る。
複数人の兵による、全方向から銃を構える音。それは、死刑宣告のようにも思えた。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!