第7話

6.朝
30
2024/10/02 09:19 更新
テントの隙間から溢れる陽射しに、青年は目を開く。
寝惚けた頭で昨日の事を思い出し、あの奇抜な髪色の─自分も似たようなものだが─彼女を探す。だがテントには誰もおらず、代わりに「少し離れる」とだけ書かれた1枚のメモが残されていた。
青年(シグマ)
……そう、か……
青年(シグマ)
……家族ならおはよう位は言いたかったのだが、こればかりはしょうがないな……
そう言うと青年は再びテントの中で寝転がる。然程高くない布の天井を眺め、青年は段々と目が覚めていく。
青年(シグマ)
…………






─いや。よくよく考えたら怪しくないか?






いやいやいや。いきなり現れて姉だ家族だ同じだなんて、考えなくとも怪しいだろう。私は莫迦か。

ふと我に返った青年はがばりと起き上がり、辺りを見回す。テントの中には、彼以外誰もいない。物も少ない。しかしこれは、逃げ出すには絶好のチャンスだ。
青年(シグマ)
……だが……



デルタ
私はお前を大切に思っているんだ
……私の為にあの組織の奴らを殺してしまう程、あの女は私を思っていた、と言っていた。
その思いを無下にしてしまうなんて、私には……。
青年(シグマ)
……いや。そうやって何度も騙されてきた。今更そんな甘い言葉には釣られない
青年(シグマ)
そもそもいきなり姉を名乗るなんて怪しいに決まっているだろう……莫迦々々しい
こんなおかしな女に付き合ってられるか。よし、出ていってしまおう。

青年がテントから足を踏み出したその瞬間。
デルタ
あ、起きたか弟
丁度戻ってきた彼女と、バッチリ目が合ってしまった。
若しかしたら、私が逃げ出すことを予感して戻って来たのだろうか。兎に角、何か釈明をしなければ……。
青年(シグマ)
っ、デル──
デルタ
ほれ
青年(シグマ)
……ん?
彼女が差し出したのは、紐の巻かれたハムだった。
……ハム?何故?
デルタ
どうしたそんな間抜けな面して。朝飯だぞ、食べないのか?
青年(シグマ)
……あ、あぁ……食べる……
食べるが……
……まさか、これは。
いや、これも。
青年(シグマ)
……盗んできたのか……?
その言葉に、デルタは凪いだ表情で頷く。
デルタ
あぁ、盗んだ。まぁいいだろう、早く食べよう。腹が減った
手に握ったナイフでハムに巻かれた紐を切る。ブチブチ、という繊維の千切れる音が聞こえ、思考が現実に引き戻される。
青年(シグマ)
何故、そんな事を。まさか私の為だなんて言うなよ
デルタ
何故?何故って、何が?
デルタ
奪わなければ生きられないだろ、私達。生きる為だ、しょうがない。食料は生きる為に大切なものだ。……確かに弟に盗んだ物を食べさせたいとは思わん。そこは反省している
青年(シグマ)
いや、そういう事ではない。道徳的な話だ。そもそも、物を盗んではいけない!
???
彼の言う通りだ。盗みはいけない。それが大切なものなら、尚更
何処かから、そんな声が聞こえた。
聞き覚えのある声だ。ついこの前まで、私が聞いていた声。その声に、青年は息を詰まらせた。
青年(シグマ)
ッ……!!
???
然してこの男は、我々の大切な道具だ。盗んで貰っちゃあ困るんだよ、お嬢ちゃん
二人の前に現れた男は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべてデルタを見下ろした。
この男は私が監禁されていた組織の長だ。非常に残虐で冷酷な、血も涙もないような男。
噂によれば彼は「視認した相手の心臓に必ず弾を当てる」という異能力を持っているらしく、その強力な異能力を前に生きて帰れた人物は、誰一人として存在しない。
デルタ
……昨日の奴らの残党か。大切な道具ならもっと手入れをしてやれば良かったのに。そんなだから盗まれるんじゃあないのか?
???
道具の価値も分からない奴にそんな事を言われる筋合いはないな。盗人風情のやんちゃ娘には、ちっとばかしお仕置が必要か?
デルタ
道具の価値も分からない?分かっていないのはお前の方だろう、節穴野郎
そう挑発的に笑うデルタ。長はぴくりと眉を顰め、自身の腰に引っ掛けてあるホルダーに収めた回転式リボルバー拳銃に振れる。
???
……どうやらお前は、道具の価値どころか自分が置かれている立場すら分かっていないみたいだな
その声と共に、全方向からカチャリと音が鳴った。長が戦場に出るとなれば、勿論長に従う兵も戦場に出る。
複数人の兵による、全方向から銃を構える音。それは、死刑宣告のようにも思えた。

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